明けまして梅雨/兄弟おつ ページ11
立て続けにヤなことが起こったのち、予報外れの大豪雨。
いつもは鞄に入れているはずの折りたたみ傘も今日に限って家に置いてきたようで、私は薄暗い空をぼうっと見上げてトボトボ校門をくぐった。
薄い夏服の半袖が、雫を含んでべったりと肌に張り付く。すれ違う通行人の好奇の目が鬱陶しい。
やっぱり連絡して迎えに来て貰うんだった、と後悔しつつ冷えた肩をさすって、
(……あ、)
不意に足が止まった。
一つ向こうの赤信号に、入学した時から見詰め続けてきた憧れの背中。私がずっと、ずっと立ちたいと願っていたその隣には、全然知らない女の子が嬉しそうに彼を見上げていて。
雨音がゆっくり遠のくような心地がした。
そっか。そうなんだ。
付き合ったって、その子のことだったんだ。
噂通りの可愛い子。私が敵うはずも無い。
歩道の端っこに一人立ち尽くし、雨に濡れた前髪をぼんやりと払う。足元の水溜りに雨粒が跳ねるのを眺めていれば、ふいに私の頭上だけ雨が止んだ。
振り返れば、赤青緑の傘が三つ。
目が痛くなるようなビビッドカラーにぐるりと囲まれ放心していると、三人は「コラ」と私の脳天にチョップを食らわした。ぐしゃり、弟者の大きな手が私の髪をかき混ぜる。
「傘忘れたんだったら、連絡ぐらいしなさい」
「…ごめんなさい」
「兄者さまの電話にはちゃんと出ろ」
「ご、ごめん、気づかなくて」
「Aちゃんだいじょぶ?体冷えてない?」
「……うん」
私の目線まで屈んだおついちさんが、目尻から溢れる雫を優しくハンカチで拭ってくれる。
泣いてるの、わかるんだ。
雨でこんなに濡れてるのに。
ぐすぐす鼻を鳴らしながら、受け取った傘を開く。
隣に並んだ兄者が「ホレ」と手を差し出した。
「鞄貸して。お前ぜってえ明日風邪引くぞ」
「…女には雨に濡れたい時もあんの」
「あ、そ。じゃあ傘いらないね返してね」
「キャーッ!ちょっと何すんのよ!」
「A〜、傘壊れたからそっち入れてぇ」
「なんのウソよ、やめて来ないで!」
「あ、俺も傘壊れたみたい」
「ほんとだ俺も」
「このゲス野郎ども!」
ぎゅうぎゅう狭い傘の下で押し合いへし合いされて、もう自分が濡れてるのか濡れてないのかも分からない。
ただ、冷たくなった肩に触れる体温が、何だかすごく温かかったってことだけは。
明けまして梅雨
(みんな仲良く風邪っぴき)
193人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
はやさか(プロフ) - へーすけさん» 初めまして!そして、返信が一年ぶりという非礼を詫びさせてください…orz 素敵なんて言っていただいたの初めてでとっても嬉しいです〜!ありがとうございます! (2020年12月18日 21時) (レス) id: bd75fcb4fa (このIDを非表示/違反報告)
へーすけ - 初めまして、へーすけと申します。はやさかさんの素敵な夢小説を読ませていただきました。誠に勝手ながらこっそりと応援しています。 (2019年7月22日 21時) (レス) id: 53845ff19b (このIDを非表示/違反報告)
はやさか(プロフ) - みぃさん» 返信遅くてすみません!!私も語彙力と文章力の無さに日々悩まされております……ありがとうございます、またみぃさんの作品も拝見させていただきますね! (2019年6月24日 16時) (レス) id: bd75fcb4fa (このIDを非表示/違反報告)
みぃ(プロフ) - はやさかさん» 返信ありがとうございます!!私も色々書いておりますが語彙力が無さすぎて汗これからも頑張ってください!! (2019年1月6日 0時) (レス) id: f861e836fe (このIDを非表示/違反報告)
はやさか(プロフ) - みぃまさん» 遅くなってしまい御免なさい!有難うございます、この一年ろくに書けなかったので今年は沢山書きたいです! (2018年12月29日 10時) (レス) id: 63c1855969 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:はやさか | 作成日時:2018年3月29日 22時