花、そして散る*5 (ページ37)

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「勇人…」

『ん……、もう行くん？』

「うん、仕事だから」

お久しぶりの勇人の家。
身体を重ねたのは何週間ぶりだろう。

やっぱりちょっと、勇人は意地悪だった。

でも、眠そうに目を擦るこの仕草は愛らしい。

仕事場は同じだけど、業務時間は違う私たち。
私の方がちょっとだけドーム入りの時間が早いんだ。事務的な仕事の分だけ。

『いってらっしゃ…い』

「行ってきます」

勇人の頬に唇を落として、ドームへ向かう。

シャッターを切る。

私の仕事。

私の天職。

やっぱりこの時間が一番好き。

カメラマン席から、選手を追う。
今は、宮國さん。
背中には大きな背番号、30。

今日の先発。

アメリカ自主トレで逢ったレイラに片思い中で、ジャックとの三角関係にあるんだけど、その事実には気づいてないみたい。

そういえば、恋のお相手レイラさんから頼みごとがあったんだ。

“宮國さんの投げてるところを写真に納める”

直接こうは言われてないけど、絶対投げてるところが見たかったんだと思うんだよね。

だから、写真送ってあげる。

ジャック、ゴメンね。

カシャッ

カシャカシャ

「ナイスピッチング」

もう９回だって。早い早い。
アウト３つを簡単に取って、試合終了。

私の仕事もそろそろ終了。

佐藤「浅香さん、お友達来てるみたい」

「え、友達…？あっ、ありがとうございます」

友達？誰だろう。
誰も呼んでないし、逢う約束もしてない。

関係者用の出入口の前で待っているらしい。

目を向ければ、確かにそこには、友達がいた。

「レイラ！？えっ、弥生も」

レイラ「Hello A。逢いたかったー」

「あ、うん。えっ？なんでいるの？」

弥生「うーんとね、一時帰国ってやつ？」

ジャイアンツのユニホームをバッチリ着ているレイラと弥生。確かこれは、お母さんの物。

一時帰国？なんでレイラまで。

「チケットどうしたの？」

レイラ「顔パスってやつ、使ってみた」

「え、まさか……。お母さんいるの？」

レイラ「うん。途中で帰っちゃったけど」

弥生「先に［花］に行ってるって」

今日、良い試合だったけどな。途中で帰るなんて恐ろしいな、浅香波留。

私のお母さんだけど。