35.重たくて堪らない荷物 ページ36
朝はいつも通り彼を起こして、彼が好きだった朝食を食べさせる。
寝癖が付きやすい彼の髪を、彼がご飯を食べてるうちに直してやるとくすぐったいのかご飯そっちのけで振り向いて無邪気に「へへ…」と笑った。
勿論私も同じように微笑み返す。
かちゃかちゃという食器音は次第に激しくなって、取れないのか最後の一口二口だけをAが手伝ってあげる。
「あれ、きょうはおくすりは？」
『……今日はね、良いんだよ』
それだけ言うと未だ状況の掴めていない彼は頭にはてなマークを浮かべるが、とにかく苦い薬を飲まなくていいという事だけは嬉しいのかその返答に頬を緩めた。
『今日はね、何してもいい日だよ。お菓子も食べ放題だし、薬も飲まなくていい。玩具も出しっぱで遊んで良いんだよ』
「なんでー？」
『今日は特別な日だからね』
昼頃を時計が回る頃にはそこらじゅうが散らかっていて、Aが言った通りにキヨも今日は遠慮なしに自由に動き回って大好きなポテチを食べ漁った。
『私少し買い物行ってくるね。窓とコンロには触っちゃダメだよ』
「えー、おれもいくー」
Aの言葉は鶴の一声の様で、さっきまで夢中で遊んでいたキヨがその言葉にだけはすぐに遊ぶのをやめてAの元まで近づいてきた。
それを見越していたAは鼻から空気を漏らしながら笑うと優しく『だーめ』と彼の頭を撫でた。
背が高いために少し背伸びすることさえ愛おしい。
『荷物が多くて大変だからね。キヨが良い子でお留守番してくれる方が私嬉しいな〜』
そう言うとキヨは口を尖らせて俯きがちになりながらも渋々といったように了承した。
感謝の言葉と共にまたキヨの頭を撫でてやると猫のようにAの手にすりすりとする。
二人分しっかり死ぬ為の荷物は置いていく彼には申し訳ないが私には重すぎるのだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 171人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「実況者」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
たらこ - とても悲しく、深い話だなと思ました。名前がキヨをキヨと見ていたら,,, (2月12日 2時) (
レス) @page40 id: 72d3936bbd (このIDを非表示/違反報告)
まりも(プロフ) - 何回読んでも泣いてしまいます。最後の解説など含めて、本当にうまく作られてるんだなと思いました（ ; ; ） (7月27日 23時) (レス) @page40 id: 790bb942cd (このIDを非表示/違反報告)
カナリヤインコ - 上に『やがて月白の中で風は吹く』のイラストがあるじゃないですか、私はそのイラストに対して「へ〜…」って感情だけだったけど、全部の話を見たあと絵を見たらすごい繋がってて、この作品ははしからはしまで丁寧に作られてるんだな！って思いました。 (2023年1月15日 6時) (レス) id: 5842f57514 (このIDを非表示/違反報告)
ねこ - 最高に胸糞悪いです！(すごく褒めてます)大号泣しましたTTネタバレになってしまうかもしれないのですが、キスした後にキヨが言ったセリフを見て、心臓が凍りつくような感覚になりました。読み終わった後の喪失感。すごく良かったです。描写も丁寧で読みやすかったです！ (2022年7月13日 6時) (レス) @page40 id: 4e499b6376 (このIDを非表示/違反報告)
369(プロフ) - ラストが痺れました。描写がものすごく丁寧なので頭がよわよわの私でもぱっと場面が思い浮かんで楽しかったです。 完結お疲れ様でした。 (2021年7月21日 8時) (レス) id: 1c3710e730 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蠍
| 作成日時：2021年2月21日 4時
