26.壁に思い出を張り巡らして ページ27
幼児退行した彼は案の定ゲームやPCには全く興味を示さなかった。
実況の収録部屋を見せても目の色は変わらずただ「ふぅん……」と興味の無さそうな相槌を響かせるだけですぐテレビの前に行くか、お気に入りの玩具を手に取って一人遊びにふける。
確かに自分が四、五歳の時はゲームも理解出来ず、パソコンも何だか分からないままただひたすらに目の前の玩具に夢中になっていた。
そう考えると何ら普通のことなのかもしれない。
とにかく、記憶を呼び起こす糸口にすらならないガラクタに成り果ててしまったのだ。あのお宝達は。
「これだあれー?」
いつの間に、そしてどこから引っ張り出して来たのかキヨは分厚いアルバムを持ってAの所に来た。
テーブルでキヨを眺めながらうつらうつらしていたつもりだったがほんの少しだけ眠りこけていた様で、その間にキヨが持ってきて一人眺めていたらしい。
『……んー?どれかなー?』
「これ!このきいろのひと!」
そう開かれたページで指を刺されたのはきっと彼にとって黒歴史時代の金髪のキヨ。
久しぶりに見たその眩しいくらいの金髪姿と変にかっこつけた一枚に思わずAは手を叩いて笑ってしまった。
それを本人であるキヨは不思議そうに首を傾げて見ていた。
『これ!あはは、懐かしいー!これキヨだよ。何年前だったかなー……』
「これ……、これおれ?これ……。かみ……きいろ……」
余程ショックを受けたのかキヨは目を白黒させ、自分の髪をくしゃくしゃと触りながら写真と笑うAを見合わせる。
『キヨはね、九年前くらいかなー……。髪の毛まっきんきんだったんだよ。……ふ、ふふ、今見ても面白いなあ』
不満そうな彼の顔を見て更に笑い転げてしまいそうになるAだったが、キヨがそれを許さず次々ページを捲って色々な写真を尋ねてくる。
そのうちキヨと海を眺めに行った時の写真や、花畑を見に行きたいという我儘に付き合ってくれたデートの写真、桜をバックに彼が笑いながらAを撮った写真なんかも出てきて徐々にAの口数も減ってきた。
『……そう、これは柄にもなく天気いいからって公園行って桜を見て……いつの間にかキヨに撮られてて。……笑っちゃうくらい写りが良くて』
「……A?」
『…………あ、そうだ』
途端Aが声を上げて思い出の写真を数枚手に取り、剥がしやすいマスキングテープで壁に貼り付けていく。
それは記憶を思い出させる為の得策のはずだった。
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たらこ - とても悲しく、深い話だなと思ました。名前がキヨをキヨと見ていたら,,, (2月12日 2時) (レス) @page40 id: 72d3936bbd (このIDを非表示/違反報告)
まりも(プロフ) - 何回読んでも泣いてしまいます。最後の解説など含めて、本当にうまく作られてるんだなと思いました( ; ; ) (7月27日 23時) (レス) @page40 id: 790bb942cd (このIDを非表示/違反報告)
カナリヤインコ - 上に『やがて月白の中で風は吹く』のイラストがあるじゃないですか、私はそのイラストに対して「へ〜…」って感情だけだったけど、全部の話を見たあと絵を見たらすごい繋がってて、この作品ははしからはしまで丁寧に作られてるんだな!って思いました。 (2023年1月15日 6時) (レス) id: 5842f57514 (このIDを非表示/違反報告)
ねこ - 最高に胸糞悪いです!(すごく褒めてます)大号泣しましたTTネタバレになってしまうかもしれないのですが、キスした後にキヨが言ったセリフを見て、心臓が凍りつくような感覚になりました。読み終わった後の喪失感。すごく良かったです。描写も丁寧で読みやすかったです! (2022年7月13日 6時) (レス) @page40 id: 4e499b6376 (このIDを非表示/違反報告)
369(プロフ) - ラストが痺れました。描写がものすごく丁寧なので頭がよわよわの私でもぱっと場面が思い浮かんで楽しかったです。 完結お疲れ様でした。 (2021年7月21日 8時) (レス) id: 1c3710e730 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蠍 | 作成日時:2021年2月21日 4時