｜ ページ29
感情に任せて体が動きそうだった。
何故、どうしてこんなことにと抱き着いて同情を求めたかった。しかし、それは結局誰でもよかったのかもしれないし。
本能がそれを許さなかった。
どうしてこの街に用のない、こんな場所にいるはずのない彼がドンピシャでここに居るのか。その困り果てたような、まるで自分の為に取り繕った申し訳程度の笑顔は一体何を言いたいのか。
華奢ではあるものの男のしっかりとした体つきの彼が一歩、また一歩とAの方へ歩み寄る度にAは身の毛もよだつ様な震えが止まらなかった。
蛇に捕食されるようなその緊迫感に既視感を感じてコンマ数秒Aは思考をめぐらせてはっと気付いた。この恐怖はストーカーに追い詰められていくあの感覚によく似ていると。
「たまたま近くで用があったから何かと思って来たんだけど、いやーまさかAちゃんが居るとは思わなかったなー。だめだよ、こんな時間に彷徨いちゃ。ていうか火の粉とか飛んできたらどうす……」
キヨは出任せの饒舌をAに見せつけるも、馬鹿でない彼女はじっと疑り深い視線でキヨを睨み付けていた。その視線が見たことも無い目をしていてキヨは思わず口を閉じた。
俺がそんな目をされる運命なはずないのに。
っていうか、こんな怒るほどあの男は愛されていたのか。
口を閉じたその瞬間からそんなことをふと思ってキヨは目の力を弛めた。
焦げ臭さとレスキュー隊の必死の声が遠くから聞こえて、そのどれもがキヨにとって今は邪魔で仕方が無い。折角久しぶりに彼女に出逢えたのがこんな形とは、皮肉にも程がある。
「……嘘じゃないよ。この近くに友達の家があんの」
『…そう、ですか』
了承の言葉を口にしても彼女の目の鋭さは依然として変わらなかった。彼女はそのまま後ろを振り向くと重い足取りでその場を去ろうとした。
「夜道は危ないよ、送ってこうか？」
『…結構です』
「危ないって、俺車で来てるから」
歩みを止めないAにキヨが再び声をかけて右手を取る。警戒の緩まないAはキヨの行動一つにとても過敏になっているのか、その手を振り解こうと振り上げて目を見開いた。
『やっ…！』
「俺、犯人知ってるよ」
Aの抵抗にキヨは動揺もせず、真剣な眼差しでAと目を合わせた。その真面目さ故に彼女の方が唖然とした顔をしてしまう。
キヨは口角が上がるのを必死に堪えた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 387人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なみの。 - 壊れちゃった主人公ちゃんのふわふわした喋り方好きです・・・！とっても面白かったです。 (10月17日 23時) (
レス) @page48 id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
霜はっぱ - 完結おめでとうございます!衝撃の最後!!びっくりしまった。流石です(^^)こういうのいっぱい欲しいです!でもあなたの作品はあなたが操るべきなのでご自身の思うがままに書いてくださいね!ほんとにお疲れ様でした!! (2020年9月23日 23時) (レス) id: 03879a5800 (このIDを非表示/違反報告)
草の管理人 - 終わってしまったあああ!!!だがおめでとうございます!!言うのが遅れて申し訳無いです。想像の遥か上を行く最後で口が開いてしまいましたwほんとにお疲れ様でした!わがままですがこれからも病んでる作品いっぱい欲しいです…w (2020年9月23日 23時) (レス) id: 03879a5800 (このIDを非表示/違反報告)
蠍(プロフ) - るなさん» え〜！？いつもありがとうございます！本当に書いているだけでこちらも体力を削がれるものだったので魂を削って書いた甲斐がありました。そのお言葉大切にします！私もこの作品とてもお気に入りなので愛してやって下さい！最後までありがとうございました！ (2020年9月22日 2時) (レス) id: ade8825d25 (このIDを非表示/違反報告)
蠍(プロフ) - 千景さん» 心に刺さるなんてそんな！もったいないお言葉ありがとうございます！重苦しすぎるヤンデレはこれからも書くと思うのでその時はまたよろしくお願いします！ありがとうございました！！ (2020年9月22日 2時) (レス) id: ade8825d25 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蠍
| 作成日時：2020年6月1日 0時
