【Free!】林檎【山崎宗介】Part2

第65話 ページ25

『A……A…？』

兄さんの声がする、兄さんが遠くにいる

でもこれは夢だ

だっているわけない

いつの間にか、寝ちゃったんだね

笑顔で私を手招きしてる

何なんだろう…？

私は追いかけた

足には自信があるから、追い付くと思ってた……のに

兄さんはどんどん先へ行ってしまう

私が登れない山を乗り越えてやがて見えなくなった

「…！」

そこで、目が覚めた

夢の中の私は、呆然と立っていて、進もうとも登ろうともしなかった

気がつくとシャツは涙で濡れていた

「着替えないと…」

母さんたち、まだ帰って来てないよね

晩ご飯、どうしようかな

抜いてもいいかな、一食くらい

もう面倒だ、どうせ私しかいないし

……………兄さん、なんで私の夢に出て来たんだろう

見るたび、想うたび好きになる

目を逸らしても、逸らしきれない

いつだって、私の近くにいる

いつだって、優しくしてくれる

いつだって…兄さんが好き

嫌いになれない

…もう、駄目なんだ

この想いに気付いた時点で、もう…

逃れられない

逸らしちゃいけない、分かったフリなんてしちゃ駄目だ

見つめ合わなきゃ、この恋と

「兄さん…」

小さな声で、呟いた

腫れた目を擦りながら頭を起こす

…バカだ、私は

兄さんに入って来ないで、とか言って

一人で泣いても仕方がない

兄さんに、迷惑なんてかけたくなかった……

でも、私が兄さんを好きになってる時点でもう…

バンッ

机に手をついて立ち上がる

もうくよくよするのは終わり

このままじゃ嫌だ

真琴先輩との関係もどうにかする

兄さんへのこの気持ちは、黙っておこう

ピピピッ

「優姫からだ…」

何だろう？

「もしもs…」

『A！OK貰ったよ！！』

嬉しそうな、泣きそうな声で優姫は言った

………………今、貰ったの？

っていうか兄さん、優姫の事…

『付き合ってから始まる恋もあるって言って、OKしてくれたの！』

ああ、本当に嬉しいんだ、優姫

その声を、聞けば聞くほど私の心の汚さを実感する

前の私なら素直に喜べた

よかったね、私も嬉しいって

私の恋は…こんななんだ

隠さなきゃいけない素直になれない

辛いけど、片想いってこうなんだよね

片想いは楽しいって聞いてた

けどそんなの嘘で辛くて涙ばっかり

『ほんっと嬉しい…これもAのおかげかも』

「…良かったね優姫」

…もう、真琴先輩と別れよう

そうすれば皆幸せになる

兄さんへの気持ちは、すぐ忘れられる

忘れるんだ、何もかも

第66話→←第64話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す