. ページ7
.
ぽつり、とふいに呟いた。
少し遅れてばっと問が顔をあげる。ぼーっとしていた私は、突然のそれにわ、と少しだけ身を引いた。
「……Aさんも、寂しい？」
『──え、』
その勢いのいい動きとは裏腹に、ちょっとだけ躊躇うようなニュアンスの声が、私の戸惑いを含んだ声と重なった。視線がまともにぶつかり合う。
──綺麗な、目。
『……さび、しい』
ふわ、と唇の力がほどけて、無意識にその言葉を口にしてしまったことに、ゆっくりと驚いた。そのままへらりと笑ってしまう。……だって。寂しい、なんて、本当に普通の本音だ。
『寂しい、よ。会えない日もあるし』
言ったでしょ。私、結構問のこと好きなんだよ。と、もう一度言っておく。この子は何回言っても、私がどれだけあなたを好きかわかってくれなそうな気がするけれど。……だって彼も、たぶん私が思っているより、私のことが好きなのだ。私の、心から溢れてしまいそうなほどの好きを彼が抱えてくれるのは、きっと私も彼から同じだけの想いを貰っているから。……なんて。
『このサインあったら寂しくないかなぁなんて、思──』
言葉が途切れた。ひゅ、と声にならなかった息が口から漏れる。触れ合う肩。
──あったかい。最初にそれが浮かんだ。それから私にのしかかる重みに気づいて、かぁっと顔が熱くなる。
『……問』
「僕だって寂しいけど」
背中にぎゅっと回された手。ああ、抱きしめられてる、なんて言葉で認識してしまって、もうどうしようもないくらい恥ずかしくなった。……よかった、彼が私の顔を見てなくて。私今、絶対に顔が赤い。
『じゃあ、お互い様じゃん』
ちょっとうわずった声で言う。問の髪に触れると、ん、と彼が鼻にかかった声を零した。──ふわふわして綺麗な、彼の髪。
「……Aさん」
少し掠れた、低い声。初めて聞いたなそんな声、……なんて思う間もなく、ゆるりとした力で肩を押される。──離れていく、体温。触れたままの髪から指先が落ちて、彼の首筋に伝う。少しだけ、赤く染まった頬に視線が向かった。
『……問、顔、赤いよ』
「Aさんも」
声は色っぽい掠れを残したままだった。ふたりでお互いの頬に触れて、ちょっとだけ笑みが零れる。
──それから、唇が触れ合うまでは、たぶんほんの数秒だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 238人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鳩麦こおり(プロフ) - 犬子さん» そう言っていただけて嬉しいです...！ ありがとうございます🥰 Wデートの更新はだいぶ時間がかかると思うんですが、気長にお待ちいただければ幸いです🙇♀️ (2月18日 10時) (
レス) id: 5ea5a9dd22 (このIDを非表示/違反報告)
犬子(プロフ) - 初めまして。年上彼女×mnの組み合わせと主様の表現力に終始ﾆﾔﾆﾔしつつ読ませていただいています！gnちゃんもかわいい…Wデート、拝見できると嬉しいです…。大変尊かったので思わず感想をお送りしましたm(__)m (2月16日 1時) (レス) @page13 id: 7ba156e249 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：鳩麦こおり | 作成日時：2024年2月4日 13時
