第九十一話 ページ41
Aの腰掛けた真向かいの席に真昼が腰を下ろし正面から向き合う形になる。
目が合うと、真昼は少し照れたように笑いながら口を開いた。
「こんな風に誰かと優雅にお茶を飲む事になるとは……」
「男の子だと、あまりティータイムをとったりしないのかしら?」
「それもあるし、最近慌ただしく過ごしていたからな……。御園とかは好きそうだけど、クロとかもあんまり……おやつでポテチは食べたりしてるけど」
「そういえば、アーチャー……、クロは今日は出掛けているの?」
何気なく問いかけたつもりだったが、真昼の表情に先ほどまでの明るさが消える。
視線をそらし、少し口ごもりながら真昼はつぶやいた。
「実は、昨日からクロは……帰ってきてなくて」
その言葉を聞いた瞬間、Aの脳裏に昨晩のクロの姿がよぎった。
“……俺の事は、一人で行かせたのに?”
かき消されそうな声で呟き、暗闇の中へと消えていったクロの背中。
私はあの時、彼を引き止めるべきだったのだと今更ながらに後悔した。
そしてその後悔は、すぐに謝罪の言葉へと変わる。
「ごめんなさい。……きっと、私のせいね。」
「……クロと何かあったんですか?」
真っ直ぐにAを見据え、そう問いかけた真昼の瞳にAは少し戸惑った。
何かあったのか、と聞かれればそうなのだが
それをどう説明するべきか
どこから説明するべきか
どこまで話して良いものなのかを一瞬で判断する事は容易ではなかった。
クロは一体どこまでをこの子に話していたのだろうか?
「彼と少し話しをしていたの。」
「話?」
「そう。椿の事、そして……過去の事。」
Aのその言葉に真昼の表情が緊迫したものに変わる。
真昼は一度小さく深呼吸をすると、その口を開いた。
「あの、俺はあまり回りくどいのは好きではないので単刀直入に聞きます。」
一拍の間が空き、閉ざされたこの空間に静寂が訪れる。
「あなたは一体、何者なんですか?」
そう問いかけた一点の曇りもない、真昼の誠実なその瞳に見つめられ
Aはもう逃げられないのだと腹をくくる。
一度そっと目を閉じて、胸元の十字架をぎゅっと握り締めた。
「私、は……」
そしてAは、ぽつりぽつりと言葉を漏らす。
その姿は儚げであり、かつまた憫然で。
まるで、神の前で自らの過ちを懺悔する罪人のようだった。
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サキ(プロフ) - こちらの小説ってもう更新されないんですか? (2018年5月3日 13時) (レス) id: 21861887f2 (このIDを非表示/違反報告)
日和 - はい!私生活に余裕が出て、暇があったらぜひ更新してください! (2016年8月20日 22時) (レス) id: 40ecd8018d (このIDを非表示/違反報告)
はちくま(プロフ) - いなさん» コメントありがとうこざいます、ちょっと今私生活がバタバタしておりますのでもう少々お待ちいただけると幸いです、すみません……コメントいただけて嬉しいです、頑張りますね! (2016年8月3日 7時) (レス) id: 5e438ae83b (このIDを非表示/違反報告)
はちくま(プロフ) - 日和さん» コメントありがとうございます。楽しんでいただけて何よりです。ちょっと今私生活がバタバタしておりますのでもう少々お待ちいただけると幸いです、すみません…… (2016年8月3日 7時) (レス) id: 5e438ae83b (このIDを非表示/違反報告)
いな - ずっと待ってます!更新頑張ってください!!応援しています!続きが楽しみです! (2016年8月2日 23時) (レス) id: 1536a576c8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はちくま | 作成日時:2015年5月21日 5時