第六十六話 ページ16
Aの膝へと頭を載せると、そこから伝わる柔らかい太ももの感触とふわりと香るAの香りに椿は自然と少し胸が高鳴るのを感じた。Aと目を合わせるのが気恥ずかしくて、顔は横向きに縁側先の植物達へと向き合う形になる。
少しの沈黙が流れ、そよそよと風が頬をなでる。
「そこの椿達も今はもう咲いていないけれど、元気に育っているわよ。」
「もう来年まで咲かないの?」
「そうね。ここの椿達は早咲きのものだから、また冬頃には花開くんじゃないかしら。」
ふっとAの笑ったような気がして、椿は横に向けていた顔を上の方へと向けAの顔を真正面から捉える形になる。
上から椿の顔を覗き込むA。
垂れてくる綺麗な金髪が太陽の光に照らされて眩しく輝き、優しい笑みを浮かべAは椿の頭を撫でる。
その手のひらから伝わる優しさに、椿はうっとりと瞳を閉じる。
すると、先日から続いていた頭の奥のぐらぐらとする感覚が僅か和らいだ気がした。
「ねぇ、僕に“椿”って名前を付けたのってAなんだよね?」
「ええ、そうよ。」
「この名前を付けたのって何か意味とかあったの?」
「それはね……。」
かた、と縁側の床板が軋むような音が聞こえ、椿は閉じていた瞳を開く。
すると、その音の先には先生が立っていた。
「おや、椿。こんなところにいたのか。体調の方はもういいのかい?」
「うん、大分よくなってきたよ」
「そうか。それにしても、随分と羨ましい光景だね。」
Aに膝枕されたまま、逆さの視界から先生を見上げていた椿を見下ろして先生は言う。
椿はその姿勢を崩さぬまま答える。
「先生もやってもらえば?膝枕」
「そうだね、ぜひともお願いしたいものだ。」
「ふふ、じゃあ先生は後で。研究にひと段落ついた頃にでも」
「それは楽しみだ。研究が捗るね。」
Aと先生は顔を見合わせ、ふっと笑みを浮かべる。
それを見ていた椿はちょっとした疎外感を感じる。
やはりこの2人の間には強い絆のようなものがある。
どんなに一緒に暮らしていても、壁のようなものを感じていた。
いいなあ、羨ましい。
そんな感情が浮かんだが、それは先生に対してなのか。
はたまたAに対してのものなのか、椿には分からなかった。
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サキ(プロフ) - こちらの小説ってもう更新されないんですか? (2018年5月3日 13時) (レス) id: 21861887f2 (このIDを非表示/違反報告)
日和 - はい!私生活に余裕が出て、暇があったらぜひ更新してください! (2016年8月20日 22時) (レス) id: 40ecd8018d (このIDを非表示/違反報告)
はちくま(プロフ) - いなさん» コメントありがとうこざいます、ちょっと今私生活がバタバタしておりますのでもう少々お待ちいただけると幸いです、すみません……コメントいただけて嬉しいです、頑張りますね! (2016年8月3日 7時) (レス) id: 5e438ae83b (このIDを非表示/違反報告)
はちくま(プロフ) - 日和さん» コメントありがとうございます。楽しんでいただけて何よりです。ちょっと今私生活がバタバタしておりますのでもう少々お待ちいただけると幸いです、すみません…… (2016年8月3日 7時) (レス) id: 5e438ae83b (このIDを非表示/違反報告)
いな - ずっと待ってます!更新頑張ってください!!応援しています!続きが楽しみです! (2016年8月2日 23時) (レス) id: 1536a576c8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はちくま | 作成日時:2015年5月21日 5時