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路地裏は不安を煽るほど暗い。昼だということを忘れて森の中にでも迷い込んだ気分だ。幸いにも私が歩いている方向はご主人様も向かっていった方向だから、万が一あの人が戻ってきてもきっと会えるはずだから大丈夫だと自分に言い聞かせ、前を歩くずっと背の高いルシファー様を見上げた。
「うーん、妙だねぇ」
「ああ」
「異端の気配は？ 僕は微塵も感じられないんだけど」
「だが、いるな。間違いなく」
ノルデ様はその存在がまるで不愉快だと言わんばかりに顔を歪めた。
どうしてだろうか。先ほどから、妙な胸騒ぎがする。ノルデ様がいつになく気が立っているからだろうか、それとも辺りがこんなに暗いからだろうか。それとも、ご主人様が近くにいないからだろうか。一度駆り立てられた不安は収まることなく、沸騰する湯の気泡のように次々と溢れてきた。こういうとき、ご主人様がいてくれるとすごく安心する。私にとってご主人様は誰よりも愛おしい人であり、失ってはならない存在だ。恐らくこれを、人は依存と言うのだろう。
私が目を伏せると、ふと違和感を覚えた。影が、影が揺れてる。見方を借りれば、それは水面だ。波紋が歩くたびに大きく広がっていく。
「ルシファー様 ノルデ様！」
「うわぁ、冗談きついなぁ」
空間がぐらりと歪む。影を吸い込み、建物を吸い込み、それは徐々に形となっていく。顔をひきつらせながら笑うノルデ様は、吐き捨てるように言った。
「路地そのものが異端だったか」
その瞬間鼓膜を引き裂こうとする異端の咆哮が轟いた。
目の前のそれはオオカミの形をした異端だった。宇宙そのもののような体の中には、吸収した街の瓦礫がふわふわと浮かんでいる。赤い無機質な瞳が私たちをしっかりと捉えていた。
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