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ご主人様は、とても優しい人だ。私は貴方を何度も傷つけたのに、貴方は私の体を優しく抱きしめてくれた。私が出来損ないなのに、貴方は何も責めずに頭を撫でてくれた。私に唯一帰る場所を作って、「おかえり」と優しい声で出迎えてくれた。
その熱も、体温も、何も失いたくない。
貴方は私のすべてだ。
「おはよう、サイファちゃん」
目を覚ます。ルシファー様の金色の目と視線がぶつかった。
私は寝台の上で横たわっていた。一瞬、頭がことに追いつかなかったが、あの異端に突き飛ばされたことだけは思い出した。それ以上は何も思い出せないのは、そこで意識を手放したためだろう。
「彼もとことん馬鹿だよねぇ」
ルシファー様は掠れた声で笑った。そして私の前髪を指で弄ぶ。
「あ……ご主人様、は?」
「順を追って説明していくから大丈夫だよ。はい、水」
私は彼に諭されるまま体を起こし、水を受け取った。
キンと冷えた無味無臭のそれを一気に煽り、口内が潤っていくのを感じると同時に、意識がはっきりとしてくる。
見渡せばロココ調の家具で部屋は統一されている。ということはここはルシファー様の屋敷ということになる。
正気でなくなり、挙句の果てに気を失った私をわざわざ運んでくれたと思うと申し訳なくなった。
「まあ、結論からいえばノアールくんは無事だよ。植物状態にもなっていないし、傷一つない。強いて言うならば、魔力を消耗しすぎて回復のために寝てるくらいだ。安心していいよ」
その言葉に一気に肩の力がふっと下りるのを感じた。それにルシファー様は困ったように笑って、私の頭を撫でる。
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