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朝、やけに甘い匂いで目を覚ました。窓の外では小鳥がそれぞれの挨拶を交わしている。ぼんやりとした頭を振りほどき、私は身支度を始めた。
この世界にはあの人と私以外誰もいない。だってこの世界はあの人のための世界だから。だけど、寂しいとは思わない。あの人が大事に育てている動物達だっている。
髪を櫛で梳かす。本当はばっさり切ってしまいたいのだけれど、あの人は長い髪の方が好きみたいだから、このままにしてある。私の髪は癖が少し強い。私はそんな自分の髪が嫌いだ。だが、あの人が
「柔らかい髪だ」と褒めてくれたのでそのままにしてある。せめてあの人みたいに綺麗でまっすぐな髪だったらなぁと、いつも思う。
ネグリジェからドレスに着替える。露出が多いとあの人は白い肌をいつも真っ赤にして、「見ているこっちが恥ずかしい」と目を逸らすから、なるべく肌が出る部分は少ないものを選ぶようにしている。
「せっかく綺麗な身体なのに勿体無い」と言われたこともあったけれど、見せびらかしたいとはあまり思わないので、これもこれでいいと思っている。
リビングに出るとあの人が珍しくキッチンにいた。目にかかるほど伸ばされた黒い前髪は朝日に照らされてキラキラと宝石のように輝いていた。
あの人は私に気づいたのかこちらに黒い瞳を向ける。この人の目は瞳孔がどこにあるのか分からない。そのせいで考えていることは分かりにくいし、怖がられることが多いけれど誰よりも優しい人だということを私は知っている。
「おはよう。サイファ」
「おはようございます。ご主人様。今日は早いんですね」
ご主人様は「ああ、そうだな」と曖昧に答えた。
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