【はたらく細胞】赤のフィヨルド

04　無頼漢 ページ6

女であるから、という理由で引き抜かれて、大切なものを失ったという女の赤血球は死ぬほど見てきた。

だから髪も思い切って切ったし、口調もなるべく男に見えるよう気をつけてきた。



そんな溝に良心を捨てたような男共を擁護するつもりは無いが、あの劣悪な環境で働き詰めにされていれば、いつか精神が壊れてしまうということは容易に想像がつく。

だからこちらも徹底して自分の身は自分で守れと先輩達に教わってきたし、いつしかそれが普通のことだと思っていた。


なのに、この体の中には、自分を女だと一目見てわかるような服装や髪型をしている奴らばかりで、かなり拍子抜けしてしまう。危機管理能力の欠如だと、呆れてものも言えなかった。

だから支給された真新しい制服は以前と同様、女性用のハーフパンツではなく男性用のものを選んだのだ。それでは骨格が合わないとマクロファージに咎まれたが、無理を通して男性用のものを支給して貰った。

外ハネが酷いせいで、少し襟足が長い男という印象にはなってしまうが、妥協点だと自分を納得させて酸素ボンベを抱えた。


この体だって、いつかは劣悪な環境に変わってしまうに違いない。油断は禁物なのだ。

今までの人生で散々見てきた惨劇のせいで、凝り固まってしまった固定観念を取りさることができなかった。

わかっている、この体は、何もかも健康的で、時々細菌が入って来ることはあれど、白血球達が対処しきれる程度のものであることも。

それでも、私は「人の体」というものを信用出来なかった。信用してはいけないとも思った。


働いて、働いて、自分の身は自分で守って。


あわよくば






人知れず死んでやろう。

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