36 唯一無二 ページ38
彼が。まさか彼が。
苦しい。苦しい。苦しい。
息切れで酸素が体から全て抜けていくようだと思いながら、私は足を動かし続けた。
答え合わせをして、もし彼でなかったら。
彼が私を受け入れてくれなかったらどうしようと、考えることしか出来なかった。樹状くんに押された背中が、重圧として私にのしかかってくるように、手が、足が、段々と重たくなってくるように感じる。
彼に会いたいと、ここまで思ったことがあっただろうか。沢山の赤血球たちの間をくぐって、大通りへ出る。赤血球を初めて助けた時の、見晴らしのいい、あの展望台のある丘に上って、上から街全体を見下ろした。
『……はぁ、……はぁ……わかんない、よ』
さすがに限界だ。
そう思ってへたりとその場に座り込んだ。この場所なら、彼を見つけやすいかもと思って来てみたが、そこかしこに細胞たちがごった返していて、どこにいるのか、そもそも見える範囲にいるのだろうと本末転倒なことを考える。
『……4989………』
彼の名を呼ぶ。この世界で唯一無二な、その名前。彼もまた私に会いたいと思ってくれていたら、どれだけ幸福なことだろう。早く彼にあって、話がしたい。またあの時のように、ずっと彼の話を聞きていたい。
37兆個もある内の、特定の細胞同士が望んで会える確率など、何分の一の確率なのだろうか。
[それじゃあ、またね!]
彼のかけてくれた最後の言葉。探し続けてもう随分待たされた。もう私に逢いに来てくれてもいいだろう。
たちあがり、口を開く。振り返れば、彼が、あの時私を助けてくれた、男の子が、そこに立っていた。
『ほんと、いっぱい待ったんだから』
そう言って涙を流す私に、ごめんと笑いながら、
「待たせちゃったね」
と彼は言った。
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まみむのめ(プロフ) - 結(むすび)さん» はじめまして!コメントありがとうございます!結構時間をかけて作ったものなので、そう言って頂けてありがたいです! (2021年6月5日 1時) (レス) id: 7de2b213c2 (このIDを非表示/違反報告)
結(むすび)(プロフ) - コメント失礼します、、!最後まで読ませていただきました。作者さんの文章の書き方も設定を細かく考えている所も、キャラとの関係性も、主人公ちゃんのイラスト等も、何もかも素晴らしかったです!素敵な作品をありがとうございます、、 (2021年5月18日 18時) (レス) id: 0ce8940541 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まみむのめ | 作成日時:2021年3月5日 16時