35 記憶と腐れ縁:3 ページ37
『いやおかしくないかな?!』
樹「えー…………どこが?」
『彼は胸腺に居たんだよ?!T細胞に決まってる!』
樹『それは一般的な場合にT細胞達の方が多いって話でしょ?」
『いやだから、だってさ、彼が好中球なら、なぜ骨髄にいたはずの細胞が…!』
そう言って、はたと我に返る。違う、胸腺にいないはずなのに、そこにいた細胞なんて、もうひとり居たじゃないか。
『…私…………』
ガタリと勢いよく立ち上がったせいで倒れた椅子を起こし、その上に尻もちをついたように座る。頭を抱え、そんな、と声を漏らす私に、樹状くんが未だに首を傾げていた。
樹「?だって思い出してみてよ、証拠が欲しいなら今持ってきてあげてもいいけどさ。骨髄球ってかなり分かりやすいけど、見た目とか覚えてないの?」
『………』
言われてみればそうだ。彼は真っ白な帽子を被って、真っ白な髪をなびかせて、真っ白な隊服に身を包んでいた。刃が当たる音も、好中球達がよく使っているアレを、骨髄から持ち出してきたのだろう。
樹「やっぱりA番ちゃんが勘違いしてたんだね。でもわかるよ、昔はこうだ!って思ってたことって、意外と固定観念化したまま残っちゃうよね〜」
私の間違いに狼狽えた姿が見ていて楽しいのか、ふふふと笑う樹状くん。それに反して、愕然として声も出ない私。
樹状くんは楽しそうに椅子から立ち上がると、私の背中に回り込んでから、肩を叩いて口火を切った。
樹「Aちゃん、もう一個勘違いしてない?」
『はぇ…?』
散々掻きむしったせいで、ボロボロになった私の髪の毛を、丁寧にどこから出したのか分からない櫛で梳かして樹状くんが笑う。なんの事だろうと考えるほどIQが低い訳でもないので、その問に対する答えはすぐに出てきた。
『……私はもう、彼に会ってる』
私がそう答えると、彼は「ピンポーン!」と嬉しそうに声を弾ませる。
彼は全てわかっていた上で、最初のあの質問からすでに、カマを掛けてきたのだと理解した。
樹「やるべきこと、あるんじゃない?」
そう言った樹状くんの言葉に誘発されて、私は立ち上がる。
後ろから頑張ってねと声をかけられたことに、顔に熱が集中する気がしたが、きっと熱中症のせいだ、となってもいない体に罪をなすり付けて、私は彼に会うため、走り出した。
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まみむのめ(プロフ) - 結(むすび)さん» はじめまして!コメントありがとうございます!結構時間をかけて作ったものなので、そう言って頂けてありがたいです! (2021年6月5日 1時) (レス) id: 7de2b213c2 (このIDを非表示/違反報告)
結(むすび)(プロフ) - コメント失礼します、、!最後まで読ませていただきました。作者さんの文章の書き方も設定を細かく考えている所も、キャラとの関係性も、主人公ちゃんのイラスト等も、何もかも素晴らしかったです!素敵な作品をありがとうございます、、 (2021年5月18日 18時) (レス) id: 0ce8940541 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まみむのめ | 作成日時:2021年3月5日 16時