34 記憶と腐れ縁:2 ページ36
樹「そういえばさ、君、彼とはもう会ったの?」
『彼?』
樹「ほら、あの君がちっちゃなリンパ芽球だった時の」
『あぁ…』
その話かと相槌を打てば、彼は私の話を聞きたいと声を立てた。
だが、そこまで面白い話は聞かせられないから、期待しても無駄だという意味で首を振る。あれからもう大分経ったが、彼の噂一つ掴んだことがなかった。
やはり、死んでしまっているのではないか。
そう考えることも口に出すことも嫌で、出された紅茶に口をつける。
甘いはずの紅茶は、口の中で少しの苦味を残して喉を通っていった。
樹「そっかぁ…残念。まぁ仕方ないよね、白血球の中でも4割〜7割もいるんだもん。見つかる方が奇跡的かぁ」
そう言って彼もまた紅茶に口をつける。本当に…と相槌を打つ前に、ふとあることに気がついた。
『え?4割〜7割?樹状くんが記憶違いなんて珍しいね』
樹「え?僕に記憶違いなんてそんなこと…。おかしいところあった?」
何を言っているのか分からないと彼は首を傾げて私を見る。彼の言うとおり、樹状細胞ともあろうものが、記憶違いなどするはずがなかった。では、私の方が間違って居るのだろうか?否、そんなはずもない。
この齟齬は一体なんなのだろうか。
『待って、樹状くん。彼は確かリンパ球だったはずだよね?』
白血球内のリンパ球の割合は約10%〜50%のはず。彼の言う通りであるなら、些か数値がズレすぎているのだ。
そんなはずはない。そんなはずは。
だが、彼が口にしたのは、私が望んでいた答えではなかった。
樹「え?彼は好中球だよ」
『は?』
そんなはずは、なかった。はず、だったのに。
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まみむのめ(プロフ) - 結(むすび)さん» はじめまして!コメントありがとうございます!結構時間をかけて作ったものなので、そう言って頂けてありがたいです! (2021年6月5日 1時) (レス) id: 7de2b213c2 (このIDを非表示/違反報告)
結(むすび)(プロフ) - コメント失礼します、、!最後まで読ませていただきました。作者さんの文章の書き方も設定を細かく考えている所も、キャラとの関係性も、主人公ちゃんのイラスト等も、何もかも素晴らしかったです!素敵な作品をありがとうございます、、 (2021年5月18日 18時) (レス) id: 0ce8940541 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まみむのめ | 作成日時:2021年3月5日 16時