33 伝えないと伝わらない ページ35
こんな4989番さんの顔、初めて見た。と赤血球は思った。辺縁プールに背を預けてお茶をすする彼の横顔が、いつにも増して悲しそうだと心が痛む。
そんな私を、自分がそうなっているにも関わらず気遣ってくれているのか、だから怒ってないよってと笑って私の肩を叩いてくれた。
49「…むしろ、自信満々だった自分が恥ずかしくなっちゃうところだったよ、ありがとう」
そう言って帽子のつばをつまみ、ふかく被り直す彼の声音は、とても震えている。拒絶されることを怖がっているような、そんな震え。白血球だからと散々な目に会ってきた彼らに、これ以上の重荷を背負わせるのかと、とても気の毒に思った。
赤「…………でも、」
望みをかけるようにそう呟く。赤血球は、心のどこかで何か、しこりに引っかかっているような感覚を覚えていた。
彼女が好きだったのは、本当にそのリンパ球だったのか。どうしてもその事実が認めがたかった。
これは白血球への同情ゆえではない、具体的な理由はないが、漠然とした自信である。根拠も何も無いから、その思いを口にすることは自重するに至ったが、赤血球はそれが気がかりでならなかった。
赤「もう、告白はされたんですか?」
49「ん…まだ。怖くて全然できる気がしないや。細菌相手じゃこんな弱気にならないんだけどな」
そう冗談を言って、お茶を啜った。彼が丁度お茶を飲み干したその時に、持っていたトランシーバが反応して、彼が応答する。
そろそろ行くね、頑張って。と私に軽く挨拶をして駆け出した彼の背中に、唯一の言葉を選んで声をかけた。
赤「想いは、伝えないと伝わらないと思います!」
頑張ってくださいと、彼が私に言ったように、私もまた、彼の背中を押すように叫んだ。
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まみむのめ(プロフ) - 結(むすび)さん» はじめまして!コメントありがとうございます!結構時間をかけて作ったものなので、そう言って頂けてありがたいです! (2021年6月5日 1時) (レス) id: 7de2b213c2 (このIDを非表示/違反報告)
結(むすび)(プロフ) - コメント失礼します、、!最後まで読ませていただきました。作者さんの文章の書き方も設定を細かく考えている所も、キャラとの関係性も、主人公ちゃんのイラスト等も、何もかも素晴らしかったです!素敵な作品をありがとうございます、、 (2021年5月18日 18時) (レス) id: 0ce8940541 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まみむのめ | 作成日時:2021年3月5日 16時