【はたらく細胞】好きと嫌いは紙一重

20　儘への剣呑 ページ22

最近、好中球の男と仲良いらしいじゃん。


いつもの如く仕事を終えた直後、同僚から冗談半分にそう茶化された。普段通りの私であれば、はいはいとその言葉を茶化しと捉えて適当にあしらっていたことだろう。

しかし、なかなかどうして、その日の私は、虫の居所が悪かった。
いや、正確には、自分の愚かさに気づいたが故に、そのような愚かな自分に対する怒りで不機嫌になってしまっていたと言う方が正しい。


馬鹿か、私は。



ガン、と罪のないロッカーに思い切り拳を突き立て、じわりと滲む痛みで頭を冷やす。

最近の自分は、どうも浮かれていた。細胞に流され、絆され、自分の信念を危うく曲げるところだった。

私の荒れ様を見て、同僚はそそくさとその場から逃げるように立ち去って行ったが、私はそのまま床にへたり混み、頭を抱える。




『このままじゃだめだ、このままじゃ』



どう足掻いても、誰も幸せになれない。
皆が幸せになるには、私が、私たちが幸せになってはいけない。

その理由を痛感しているから、抗いきれない運命の力とやらに、縋る権利も与えられていない。

もし、4989なら、どう足掻いても救われないと分かっている状態で、どんな決断を下すのだろう。
彼はあぁ見えても賢くて、強いから、きっと、私では到底考えもつかない答えを持っているんだろうな。


強くなくちゃ、いけない。


強く、かつ孤独でなければ、私たちが生きている意味などない。

21　儘への期待→←19　有限な幸せ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す