13 感謝と喜び ページ15
『大丈夫ですか?赤血球さん』
死んだかと思った。私の第一声はそれだった。
私の足元に零れ落ちた緑色の血だまりをみて、荒い呼吸を繰り返す私の肩を、やさしく抱いてくれたのは、あの時のプラズマ細胞さんだった。
私より一回りおおきな体を見上げ、かたかたと震えることしかできない私に、やさしく微笑みかけてくれる彼女に、涙が止まらなかった。
こわかった。こわかった。
そう繰り返すだけの私の頭をなでてくれた彼女の反対の手には、一丁の拳銃がにぎられており、銃口からは白い煙があがっている。
それを見て、先ほどの見たことの無い細菌は、おそらくこの銃で撃たれたのだろうと理解するのに、そう時間はかからなかった。
『ああ…これ。これで抗体を作り出してるんです。…といっても、私が作れる抗体の種類は、一つに限られてるんですけど』
私の視線に気づいたプラズマ細胞さんは、苦笑しつつもそう教えてくれる。いろいろ言いたいことがあったはずなのに、何も言葉が出てこない私に微笑んでから、プラズマ細胞さんは、その場を去ろうとした。
赤「___あ、あのっ!!!」
『…っお!、な、なに?』
突然の大声に大きく動揺したプラズマ細胞さんが、こちらを向いて首をかしげる。
プラズマ細胞さんは、免疫細胞の一人だから、私がここで引き留めるのはどうあがいても迷惑だってことはわかっていた。
どう見たって、非効率なことは明白なのに、彼女は私を助けてくれた。
私が言うべき言葉はたったひとつ。
赤「ありがとう、ございます!!プラズマ細胞さん!」
その言葉を聞いた彼女は、一瞬おおきく目を見張ったが、少し笑うと、
『私、エリートですから』
と言って、私の前から姿を消した。
らしくないことをしたと、リボルバーに抗体をこめながら独り言ちた。
たかが一人の細胞を助けるために、わざわざ走ってまで彼女の容態を確認しに行くだなんて。
私を見上げた彼女の泣き出しそうな、しかし嬉しそうな顔が、脳裏をよぎる。そして、彼女が精いっぱいに声を振りしぼって形にしてくれた、「ありがとう」という言葉。
『いつぶりだったかな』
頭を掻き、そうつぶやいた私の声音は、少しの気恥ずかしさと、少しの喜びを孕んでいた。
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まみむのめ(プロフ) - 結(むすび)さん» はじめまして!コメントありがとうございます!結構時間をかけて作ったものなので、そう言って頂けてありがたいです! (2021年6月5日 1時) (レス) id: 7de2b213c2 (このIDを非表示/違反報告)
結(むすび)(プロフ) - コメント失礼します、、!最後まで読ませていただきました。作者さんの文章の書き方も設定を細かく考えている所も、キャラとの関係性も、主人公ちゃんのイラスト等も、何もかも素晴らしかったです!素敵な作品をありがとうございます、、 (2021年5月18日 18時) (レス) id: 0ce8940541 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まみむのめ | 作成日時:2021年3月5日 16時