9 落し物:裏 ページ11
あれは、あの好中球がレセプターに反応してその場を離れていった直後のこと。
彼が現れる前より聞こえていたｼﾞｼﾞｼﾞ…という電子音が、マンホールのあたりから聞こえてきていた。
目線をずらしてそれを見ると、傍には彼のものであろうトランシーバがころりと投げ出されており、なにやら声をはりあげた様子の人の声が聞こえる。
『…あいつ、まさか落としたんじゃ…』
そう考えて、そのトランシーバに手を伸ばした。きっとこれは、彼が円滑に細菌を殺すために必要不可欠なものだろう。それはなんとなく理解出来た。
だが、これを彼に渡す手段がない。あの赤血球に、白血球の仲間に渡してくれと伝言を頼むべきか、このまま放置しておくべきか、悩みに悩んだ。
あのような形で抜け出してきてしまった手前、加えてあの赤血球に頼み事をするのには少々気が引けるし、これを放っておくにしても、あれだけ良くしてくれた好中球を無下に扱うことは私の良心に深く爪を突き立てることになる。
『…………仕方ない、か』
深く息を吸い、吐いた。
こうなれば直接渡しにいくしかないだろう。それが、なるべく他の細胞達とコミュニケーションを取らずに本人にものを運ぶ手段。
その後、滲む手汗に震えながら帰路につき、今後のことを考えながら微睡みにおちていった。
予定通り、彼はあっさりと見つかった。トランシーバを無くしたことが気がかりなのか、少し俯き気味に寮から出てくる彼を追って、トランシーバを彼の眼前に突き出す。
『これ、おとしもの』
そう言ってトランシーバを彼に差し出し、押し付ける。
トランシーバを受け取ったことに安堵して、いたたまれなくなった私はそのまま身を翻し元きた道を進もうとした。
これで貸し借りなしだとほっとしたのもつかの間、彼は何故か用もない私の腕を引き、抱きつき、更には抱きかかえるという謎の三拍子を披露した。
49「せっかくなんだし、ちょっとあっちで話そうよ」
そう言って笑う彼に、最初は何としてでもと思い、抵抗していたが、もはやそれは無駄なものだと悟って、私は首を縦に振った。
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まみむのめ(プロフ) - 結(むすび)さん» はじめまして！コメントありがとうございます！結構時間をかけて作ったものなので、そう言って頂けてありがたいです！ (2021年6月5日 1時) (
レス) id: 7de2b213c2 (このIDを非表示/違反報告)
結(むすび)(プロフ) - コメント失礼します、、！最後まで読ませていただきました。作者さんの文章の書き方も設定を細かく考えている所も、キャラとの関係性も、主人公ちゃんのイラスト等も、何もかも素晴らしかったです！素敵な作品をありがとうございます、、 (2021年5月18日 18時) (レス) id: 0ce8940541 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：まみむのめ | 作成日時：2021年3月5日 16時
