いつもと違う ページ43
樹状細胞は顔を上げた。荒い息を繰り返して、近くでマクロファージが振るったナタから飛んできた血しぶきを受ける。汗とともに額を垂れるその赤色を拭うと、その場にどさりと座り込んでヒリヒリと痛む自分の手の甲を見つめた。敵を殴りすぎたのか、いつのまにか皮が少しめくれ上がっている。
「……連絡、しましょうか」
つぶやくと、いつもと変わらない凄惨な笑みを浮かべたマクロファージが、こちらを向いて首を傾け、笑う。
「ええ、そうしましょうか」
「とりあえず僕たちもここでもう少し頑張りましょう。――付近の好中球課を招集しても無理そうでしたら、僕がヘルパーT司令に連絡します」
「ではそのように」
にこりとなおも微笑んで、マクロファージはナタを手に走っていく。それを見送って、樹状細胞は通信機を取り出した。
マクロファージが新たに敵を切り裂く音が聞こえてくる。
彼らは今、大勢の敵を前に「前線」を必死で守衛していた。
【愛なんてそんなもの】
あの後、私は4989さんと並んで歩いてお喋りをしながら、栄養分の配達を続けていた。多分両思いになれた、その直後で、お互い柄にもなく少し照れ臭くなっていたのは仕方がないと思う。
そのとき、4989さんの通信機が何かを受信した。
『――緊急連絡。a150T32kk-1地点付近の白血球好中球課全員に通達しています。現在大規模な裂傷部より大量の細菌が体内に侵入中。サイトカインをばら撒かれたくなければすぐにきてください。繰り返します、現在――』
「出動命令だ」
立ち止まり、通信機を握って、4989さんはキッと顔を上げた。この位置から例の地点までどの遊走路を使うか考えているのだろうか。壁や配管を行ったり来たりしていた4989さんの目が、ふと私に向けられる。
「…、行ってくるよ」
「はい」
一度抱きしめられて、離されて、改めて4989さんの顔を見て私はどきりとした。もう一度確認しようと思ったときには彼はもう駆け出してしまっていて、私は嫌な痛みを胸に抱えたまま汗を垂らす。
――初めて見る表情だった。何かを惜しむような、苦しそうな顔。
細菌の駆除ならいつもと同じことだと思った。好中球が駆けつけて、敵を瞬殺して。けれど、先程の連絡を思い返す。別に4989さんのレセプターが反応していたわけではなかった。それでも、樹状細胞さんと思しき人に呼び出されて、好中球である彼は前線へ向かった。…いつもと同じだと思った。でもよく考えれば、いつもと同じではないのかもしれない。
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お魚煮干し(プロフ) - オザさん» キラーさんには殴られたくないなぁww続きも頑張ってくださいね♪(ﾟーﾟ*) (2018年9月2日 10時) (
レス) id: 7be352b008 (このIDを非表示/違反報告)
オザ(プロフ) - カノン♭さん» ありがとうございます！話の途中と最後で、あの言葉の重さが違っていることが伝えられればなぁ〜と思って書きました！最後までお読みいただきありがとうございます！！ (2018年9月2日 9時) (レス) id: 5d539585d0 (このIDを非表示/違反報告)
カノン♭(プロフ) - 第一部完結お疲れ様です！話の途中と最後に題名回収。とても好きです！！！！ (2018年9月2日 0時) (レス) id: ac2788321e (このIDを非表示/違反報告)
オザ(プロフ) - まじかるれいん☆さん» 終わり方気に入ってくださる方がいてよかった〜〜ぁ！楽しんで読んでいただけたようで本当に嬉しいです、続きも頑張りますのでお待ちください！最後まで読んでくださりありがとうございました！！ (2018年9月1日 21時) (レス) id: 5d539585d0 (このIDを非表示/違反報告)
オザ(プロフ) - yamanaさん» ありがとうございます！！素晴らしいだなんてそんなに褒められたことなかったので今嬉しさでうぐうぐ言っています…。はい、続きも頑張ります！ここまで読んでくださりありがとうございました！！ (2018年9月1日 21時) (レス) id: 5d539585d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：オザ | 作成日時：2018年8月7日 11時
