それは未開拓の感情 ページ22
「…私、今のあなたの言葉はあまり本気で受け止められませんよ」
え?と丸い目がこちらを向く。
白血球の特性なのだろうか、そう育てられたのかあるいは戦いの中でそうなってしまったのか、黒い瞳のその奥にある感情はなかなか読み取れない。
「4989さん、恋ってわかりますか?」
「…なんとなく」
「愛は?」
「わからない」
「…4989さんは、一度も私に恋をしていません。愛なんて感情も持っていない」
「そんなこと、」
「いーですか。失恋マスターの私から言わせていただきますけど、あなたは絶対恋愛なんかしていない。…そうやって好きでもない相手にお嫁さんになってとか言ってると、そのうち本当に好きな人逃しちゃいますよ」
「…………Aちゃん以外に好きな人なんていない」
「たぶん私へのそれは友好みたいな感情です。私を愛しているわけじゃないんでしょう?」
「……愛、っていう言葉を、考えるのは怖い。俺みたいなやつは人を愛することはできないよ」
ぎゅ、と彼の拳が握りしめられるのが見えた。
「でも、Aちゃんとはずっと一緒にいたい。だからお嫁さんになってほしいって言った」
「友達では駄目なんですね?」
「駄目だ」
「……。こんなに言っておいて何ですけど、実は私も愛とか結婚とか全然わからないんです。1146番さんへのあれだって、恋だったのかは今でもわからない。――でも少し、4989さんといるとよくわからない気持ちになることがあります。悪い気分じゃありません。すごく、胸が温かくなる」
「…うん」
「だから、よかったら一緒に探していきませんか?働くばかりの私たちですから、恋も愛も曖昧で、今はただ好きという単純な気持ちしか知らない私たちですけれど。…4989さんとなら、何か見つけられるような気がします」
そう言いながら硬く握り込まれていた4989さんの手を解いてみせると、彼はぱあっと笑顔になって勢いよく抱きついてきた。
「よし、探そう!それでいつか愛がわかったら、俺はきっとAちゃんに恋をするよ」
「恥ずかしいことを言う人ですね…」
でもそれも、楽しそうですねと、4989さんを抱きしめ返しながら私は明るく笑った。
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実は届け物の受取人は4989先生。もう一人の赤血球が届けるはずの酸素も待つ間お話していたつもりだったが、こんな空間に入ってこれるわけもない可哀想なその赤血球はいつまでたっても酸素をお届けできずにいた。
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お魚煮干し(プロフ) - オザさん» キラーさんには殴られたくないなぁww続きも頑張ってくださいね♪(゚ー゚*) (2018年9月2日 10時) (レス) id: 7be352b008 (このIDを非表示/違反報告)
オザ(プロフ) - カノン♭さん» ありがとうございます!話の途中と最後で、あの言葉の重さが違っていることが伝えられればなぁ〜と思って書きました!最後までお読みいただきありがとうございます!! (2018年9月2日 9時) (レス) id: 5d539585d0 (このIDを非表示/違反報告)
カノン♭(プロフ) - 第一部完結お疲れ様です!話の途中と最後に題名回収。とても好きです!!!! (2018年9月2日 0時) (レス) id: ac2788321e (このIDを非表示/違反報告)
オザ(プロフ) - まじかるれいん☆さん» 終わり方気に入ってくださる方がいてよかった〜〜ぁ!楽しんで読んでいただけたようで本当に嬉しいです、続きも頑張りますのでお待ちください!最後まで読んでくださりありがとうございました!! (2018年9月1日 21時) (レス) id: 5d539585d0 (このIDを非表示/違反報告)
オザ(プロフ) - yamanaさん» ありがとうございます!!素晴らしいだなんてそんなに褒められたことなかったので今嬉しさでうぐうぐ言っています…。はい、続きも頑張ります!ここまで読んでくださりありがとうございました!! (2018年9月1日 21時) (レス) id: 5d539585d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:オザ | 作成日時:2018年8月7日 11時