【文スト】きみも悪い人でよかった 第二章【中島敦】

三十三 ページ7

波は寄せては引いて

引いては寄せてをずっと繰り返してる


私は足元にある冷たい水をヒタヒタと遊ぶ

この青く透き通っているものが人工のものでないと云うのだから凄いと思う


「Aちゃん、此方だよ！」


先に海に入っていた敦君が云った


『うん』


一歩一歩と君に呼ばれた方へ向かう


海水浴やプールなんて入った事のない私は

泳ぎなんて知らなくて、水に潜る事すらもしたことがない


そんな私はまだ足がつく浅い場所でも、もちろんの事浮き輪は絶対に無くてはならない物だ


浮き輪に体重を乗せて、しっかりと掴まる


もう胸まで海水がきている


ふわふわと躰が軽くなる


私はまるで自分が別世界に居る様な気がした


今日で絶対に泳げるようになってみせる！と心の中で決心した


「よし！じゃあAちゃん、先ずは潜ってみよう。水は苦手？」


『苦手じゃないよ』


「判った、じゃあ僕が見本をするから見ててね」


すると敦君は水の中へ居なくなった


これぐらい私も多分出来る！と思った私は敦君が潜ったのに続いて水の中に入った



ゆらゆらと波で揺れる水の中

うっすらと目を開いてみる


初めて見る水の中は、インクを溶かしたような静かな青に、太陽の光が薄い光のすじを作り出していた


すると目の前にはちょっと驚いた顔をした敦君がいた


私は水の中から顔を出した

それに続いて出てきた敦君が云った

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