【文スト】きみも悪い人でよかった 第二章【中島敦】

四十 ページ14

大きな爆発音がなり響く


先程屋台で買った綿菓子を頬張っている私は、驚いて音のなった夜空を見上げた


そこには、大輪の花が咲き誇っていた


私と敦君は夜空にうち上がる花火を見上げていた


「綺麗だね…」


『うん、綺麗…。私、こんなに近くで花火を見たのは初めて』

だけど、私はもう少しだけ近くで花火を見たいと思った


「もう少し先に階段があって、その階段を下った所にベンチがあるからそこで見ようか」


『うん』


私達は歩き出した


いつの間にか敦君は、私に歩く速さをあわせてくれる


私は敦君の横顔を見つめた

すると、視線に気づいたのか、此方を向いた


私は、敦君と目が合う前に顔をそらした



……ああ、羨ましい


君は何時も私を見て、何時も気にかけて、何時も心配をしてくれる



とても優しくて、憧れて


遠くに感じて、それでいて近くて、羨ましい


そんな事を考えていると、敦君が階段の手前で「気をつけてね」と云った


階段を下ると、大勢の人混みの中に空いている席があり、私達はそこに座る


そして花火は、また大きな音を轟かせながら、夜空をキャンバスの様に使って、飾りつけていく


でも花火は、次の花火がうち上がる頃には、跡形も無くなって消えてしまう


こうやって花火を見ていると、私も敦君も、どれだけ儚いこの中に存在していられるのかな…って


少しだけ不安になった


『永遠に続けば良いのに』


私の独り言は花火の音に消えて無くなった

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