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運良く石井先生に今日は当てられんかった。けど、何故かずっと緊張しとって、英和辞典は全く使えへんかった。
ほんで、今。英和辞典を返しにきてんけど、どないしよ。
廊下からちらっと1組を見ても、サムも角名もおらん。
さっき女の子は、隣の席の子と楽しそうにしゃべったはる。
いや、ここでいじいじしててもあかんよな。スパッと返して、さっさと帰ってこよ。
意を決して彼女の方へ進んでいく。やっぱり何故かどきどきして、緊張してまう。
「英和辞典、貸してくれてありがとう」
そう声をかけると、彼女は俺を見上げ、また優しく笑った。
「わざわざ来てくれたん！ありがとう。あ、角名くんはさっき宮くんとどっか行っちゃったで〜」
「角名には用ないから大丈夫やで」
「さっき仲良さそうやったから、また話したりすんのかなって思った」
ニコニコしながら俺と会話を続ける彼女は、思いの外話しやすいらしい。
気を遣ってくれたのか、彼女とさっきまで話しとった隣の席の女の子は、どこかへ行ってしまった。
......チャンスやん。俺は彼女の前の席に、さっきの時間角名のように後ろを向いて跨って座った。
「俺、宮侑。名前教えてや」
突然の俺の行動に彼女は驚いていたが、すぐに笑顔を俺の方に向けてくれた。
「AAです。ほんまに宮くんそっくりやね〜」
AAちゃん、な。彼女の名前を、自分の中にしっかりインプットする。
笑顔を崩さず、俺の顔を見つめるAさん。もっと知りたい。俺は自然と言葉を続けていた。
「Aさんって何か部活やっとるん？」
「私はソフト部やねん〜！ちなみに昔から野球好きで、好きすぎてソフト始めてん。宮くんはバレー部やんな？」
「そやで。Aさん野球好きなんやな。プロ野球好き？」
「めっちゃ好き！ちなみにタイガースファンやで！」
「そうなん？！俺も昔からよータイガース見てるで！今年は優勝できなそうやけどな」
「ほんまに、今年ヤクルト強すぎやわ……」
盛り上がる会話が楽しくて、つい夢中で話してまう。
昔から家でタイガースの野球中継つけてくれとったおとんにちょっとだけ感謝した。
「あれ、侑また来たの」
声がした方を向くと、角名とおにぎりを持ったサムがおった。サム食い過ぎやろ。
もう少し、Aさんと2人で話してたかったのに。
教室内も次の授業の準備で、少しずつ静かになる。
俺はAさんに手を振って、自分の教室に戻った。
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作者名：いおり | 作成日時：2021年10月15日 8時
