変化する思い ページ40
「A、よかったら一緒に──あら」
Aの部屋の扉を開けると、そこにはメタナイト卿がいた。お邪魔だったかしら、と小さく言葉を漏らせば、
「フームか。少し話があるんだ、いいか」
ふとAの手のひらを見ると、付いて随分時間が経ってあろう赤黒い血。反射的に卿を見遣ると、彼は感情が読めない目で彼女を見つめていた。普段から思考の読めない人だと思っていたが、今日は特に顕著だ。彼を視線から逸らさず、こくりと頷いた。
「Aが、魔力を使い果たし死に至りそうになっていた」
「え……」
「周りに迷惑をかけたくないと、隠していたらしい。もう心配することはないが、いささか不安だ」
まさか、そんな大事になっていたなんて。Aに頼られていなかった事や、気づけなかった事を実感して手を握りしめる。関節に痛みが走るほどに、強く。
彼女は、ほとんど人を頼らない。一度彼女のいた国や星の事を尋ねたことがあった。するとAは悲しいとも嫌悪とも取れるような顔を一瞬浮かべていた。そしてその口から紡がれたのは、あまりにも厳しい現実だった。私たちの住んでいる村と、Aの住んでいた場は環境がまるで違っていた。人に頼りにくい環境で育ったAは、国民性もあってか遠慮に拍車がかかっていったらしい。
「……そうだ、フーム」
「何?」
「ナイトメアが、本格的に動き出した。Aを利用し彼女の魔力を奪っているらしいんだ」
ナイトメア、という言葉にはっと目を見開く。
「そろそろ、潮時かも知れんな」
その呟かれた言葉が嫌に響く。ナイトメアと戦う時が、近づいていると言うのだろうか。時計の秒針の音が、周りの静寂のせいで大きく聞こえる。
「わかったわ。でも今は……Aと、一緒に過ごしてもいいかしら。」
「ああ。今は──未来に備えよう」
規則的な寝息をたてるAを見つめる卿。その彼の瞳は、子に向ける慈愛のそれのよう──いや、想い人に向けるそれに限りなく近かった。そのことに気づいた瞬間、私は小さくほくそ笑んだ。
あら、そういう事だったのね……。一人納得して思考する。
「フーム? ……どうかしたのか」
「え? あぁ、いいえ、なんでもないの」
咄嗟に表情を隠した。卿が不思議そうにこちらを見つめているが、まあ大丈夫だろう。Aが起きてしばらくしたら、問わなければ。思わぬ予定に、少しばかり胸を踊らせた。
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Taruru(プロフ) - 武藤さん» コメントありがとうございます!お褒めのお言葉ありがとうございます、今までに一番力を入れて書いている作品なのでコメント頂き本当に嬉しいです! これからも更新を頑張って行こうと思いますので、どうぞよろしくお願いします。 (2018年7月23日 22時) (レス) id: d72b270231 (このIDを非表示/違反報告)
武藤(プロフ) - 初めまして!感想が山ほどありすぎて、全てをお伝え出来ず本当に申し訳ない…ここまで心を揺さぶられ、締め付けられる作品に出会えたのは初めてです…本当にありがとうございます…! (2018年5月22日 0時) (レス) id: 957024adf4 (このIDを非表示/違反報告)
Taruru(プロフ) - Lavenさん» Lavenさん、コメントありがとうございます! 返信遅れて大変申し訳ありません……小説を閲覧頂きとても嬉しいです。これから本格的に終わりに近づいていきますが、頑張って更新をしていこうと思います! 応援ありがとうございます。 (2018年3月17日 16時) (レス) id: c1df570a9b (このIDを非表示/違反報告)
Taruru(プロフ) - 東方&カービィラブさん» コメントありがとうございます! 受験は無事終わりましたので、更新は定期的にできるようにはなると思います! もう物語も終盤ですが、どうぞ最後までお付き合い頂けると嬉しいです。 (2018年3月17日 16時) (レス) id: c1df570a9b (このIDを非表示/違反報告)
Laven - Taruruさん、お久しぶりです! 以前に貴方様からコメントをいただきましたLavenです。いつかこちらにお邪魔しようと思っていたらかなり間があいてしまいました……。今後の展開が色々と気になり過ぎます! 今でも更新を待ち遠しく思っています、頑張ってください! (2018年3月4日 20時) (レス) id: 8121ec6dbe (このIDを非表示/違反報告)
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