この気持ちに気付いたその時、 ページ28
「A」
彼女の名を呼ぶ。目の前の「器」は微かに睫毛を動かした。──届いているのだろうか。Aの瞳は据わっていない。首に掛けられた宝石は不気味な程に光り輝いて、彼女の身体を逃さない。もう一押しか? 今までよりずっと鋭い視線でAを見つめ、叫んだ。
「A‼」
あてもなく、気の向くままに漂う。水面に出ようなんて発想は一片もなく、青く澄んだ水に飲み込まれていく。
ふと、声が聞こえた。先ほどよりも鮮明で力強い。そしてまた、思い出した。
メタナイト卿の声だ。解ったその瞬間、私は水を力一杯に蹴った。きっと彼は私を連れ戻そうとしてくれている。以前そのような話をしていた記憶が、突然ひょっこりと顔を出したようだった。
「A‼」
卿の声が頭の中で響く。私は出来うる限り手を伸ばし、水面へと向かった。
「……卿」
その声は弱かった。しかしそれを聞き逃さず、彼女を見据える。その瞳は意志を取り戻していたが、ネックレスが精神に圧をかけているらしい。Aは呻いた。刹那、メタナイトが素早くAの首にかかっていた金属を切断する。それは呆気なく高い音を立てて、Aの足元に落ちた。ギャラクシアを鞘に納め、彼女の肩に手を置く。するとAはそのまま、メタナイトの方にゆらり倒れた。それを支えて、静かに呼びかける。
「A。」
「メタナイト卿……ごめんなさい。また迷惑を」
「気にするな。そなたは何も悪くなどない」
そう言うと彼女の髪が揺れる。甘い匂いが伝わってきて、胸がどくりと高鳴った。それに戸惑いながらも、彼女の口から紡がれる声を待つ。
「卿。お願いがあるんです」
ウィスピーの森。メタナイトはAを横抱きにして、ある場所へと進んでいた。どうやら先日魔法の酷使をしたことで、魔力が枯渇してしまったらしい。そのため、回復に自然に囲まれた場所で睡眠を取らなければならないようだった。ウィスピーに話を通し、花畑に彼女の体を沈める。
穏やかに眠る彼女は、これ以上無い程、愛しいと思った。そして今まで目を背けてきた事実が、頭を支配した。
私は──彼女をどうしようもなく愛しいと思い、恋い焦がれている。
そうだと自覚した途端に、体が火照るのを感じる。胸がじくじくと焼けるようだ。私は堪らず、Aの頰に手を沿わせ瞼に唇を落とす。まるで恋に踊る少女のようだと、自分の発想に自嘲する。しかしそのような気持ちが芽生えたのは紛れもない事実なのだから、仕方なかったのだ。
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Taruru(プロフ) - 武藤さん» コメントありがとうございます!お褒めのお言葉ありがとうございます、今までに一番力を入れて書いている作品なのでコメント頂き本当に嬉しいです! これからも更新を頑張って行こうと思いますので、どうぞよろしくお願いします。 (2018年7月23日 22時) (レス) id: d72b270231 (このIDを非表示/違反報告)
武藤(プロフ) - 初めまして!感想が山ほどありすぎて、全てをお伝え出来ず本当に申し訳ない…ここまで心を揺さぶられ、締め付けられる作品に出会えたのは初めてです…本当にありがとうございます…! (2018年5月22日 0時) (レス) id: 957024adf4 (このIDを非表示/違反報告)
Taruru(プロフ) - Lavenさん» Lavenさん、コメントありがとうございます! 返信遅れて大変申し訳ありません……小説を閲覧頂きとても嬉しいです。これから本格的に終わりに近づいていきますが、頑張って更新をしていこうと思います! 応援ありがとうございます。 (2018年3月17日 16時) (レス) id: c1df570a9b (このIDを非表示/違反報告)
Taruru(プロフ) - 東方&カービィラブさん» コメントありがとうございます! 受験は無事終わりましたので、更新は定期的にできるようにはなると思います! もう物語も終盤ですが、どうぞ最後までお付き合い頂けると嬉しいです。 (2018年3月17日 16時) (レス) id: c1df570a9b (このIDを非表示/違反報告)
Laven - Taruruさん、お久しぶりです! 以前に貴方様からコメントをいただきましたLavenです。いつかこちらにお邪魔しようと思っていたらかなり間があいてしまいました……。今後の展開が色々と気になり過ぎます! 今でも更新を待ち遠しく思っています、頑張ってください! (2018年3月4日 20時) (レス) id: 8121ec6dbe (このIDを非表示/違反報告)
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