彼の一周年記念の日 ページ23
今日は、カービィがここの村にやって来て一年らしい。フームにそう知らされた時、彼女は大きな段ボール箱を抱えていた。手伝うよう半分ほど腕に抱えると、その分の荷物の重みがかかって少しよろけた。どうやら私にも応援要請がかかったみたいで、くす玉の製作を頼まれたのだった。
「それにしても、カービィって秋頃にここに来たんだね。てっきりもっと後に来てたかと思ったよ」
「ふふ、貴方の方が後輩なんだけどね」
そう言われて確かに、とふと考えた。私は今年の夏にここに来て、もうここに居ついちゃってるんだものなぁ。そんなに意識する事も無かったからか、しっかりと再確認させられたような気がする。
「あ。」
「どうしたの?」
「……のり、無くなっちゃった」
唐突なおつかいの道中での事だった。
村が、静かだ。数本ののりが入ったビニール袋を手に持って、その方向に進んでいく。そして近づくにつれて、だんだん大きくなるピンクの球体。ああ、と合点がいった。どうやら住民の人達は、計画がばれるのを恐れて彼をあからさまに避けているみたいだった。
「カービィ」
「ぽ……! ぽよ!」
カービィは私を振り返ると、途端に目を輝かせてこちらに走って向かってくる。ぽてぽて、と子供用シューズが鳴るような音がして少し癒される。いくら次世代の星の戦士とは言えども、子供らしさはまだまだ抜け切れそうにないらしい。
その柔らかな肌に触れると、彼はご機嫌そうに笑みを深める。彼は今日起きてから誰とも会っていなかったみたいで、私に必要以上に笑顔を振りまいてくる。それにつられるように口元を緩めると、ぴょんぴょんと跳ねてぽよぅ、と高い声を出した。
少しした後、皆を待たせている事実を思い出して急いで彼と別れた。その際のカービィの表情は、きょとんとしていて読み取れなかった。
「はぁ? 家出⁉」
……まずい事になった。トッコリにきつい一言を言われた彼が、何処かへと家出して行ってしまった。フームは彼を一日中避けてしまったことに負い目を感じていたようだが、私も思えば彼と何の説明もなく別れてしまっていた。私も同罪だろう。背中に圧がかかって、心が針に刺されたようにじくんと苦しくなった。
心の中で彼に謝罪し、居ても立っても居られなくなって走り出した。後ろから二人の声が聞こえたような気がするが、それは私の足を止める要因にはならなかった。
そして私は、足りない頭で考えた末に思いついた場所へ向かってがむしゃらに走った。
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Taruru(プロフ) - 武藤さん» コメントありがとうございます!お褒めのお言葉ありがとうございます、今までに一番力を入れて書いている作品なのでコメント頂き本当に嬉しいです! これからも更新を頑張って行こうと思いますので、どうぞよろしくお願いします。 (2018年7月23日 22時) (レス) id: d72b270231 (このIDを非表示/違反報告)
武藤(プロフ) - 初めまして!感想が山ほどありすぎて、全てをお伝え出来ず本当に申し訳ない…ここまで心を揺さぶられ、締め付けられる作品に出会えたのは初めてです…本当にありがとうございます…! (2018年5月22日 0時) (レス) id: 957024adf4 (このIDを非表示/違反報告)
Taruru(プロフ) - Lavenさん» Lavenさん、コメントありがとうございます! 返信遅れて大変申し訳ありません……小説を閲覧頂きとても嬉しいです。これから本格的に終わりに近づいていきますが、頑張って更新をしていこうと思います! 応援ありがとうございます。 (2018年3月17日 16時) (レス) id: c1df570a9b (このIDを非表示/違反報告)
Taruru(プロフ) - 東方&カービィラブさん» コメントありがとうございます! 受験は無事終わりましたので、更新は定期的にできるようにはなると思います! もう物語も終盤ですが、どうぞ最後までお付き合い頂けると嬉しいです。 (2018年3月17日 16時) (レス) id: c1df570a9b (このIDを非表示/違反報告)
Laven - Taruruさん、お久しぶりです! 以前に貴方様からコメントをいただきましたLavenです。いつかこちらにお邪魔しようと思っていたらかなり間があいてしまいました……。今後の展開が色々と気になり過ぎます! 今でも更新を待ち遠しく思っています、頑張ってください! (2018年3月4日 20時) (レス) id: 8121ec6dbe (このIDを非表示/違反報告)
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