小さな波紋 ページ10
「わ〜!!すっご〜い!ほんとに移動出来ちゃった!!」
大はしゃぎするカービィを他所に、誇らしげに胸を張る彼。
「あの、どうして隣に……?」
「え?……あ〜、座標をいちいち調べて特定して――って作業がめんどくさかったし、自分の魔力の残滓があるボクの家の近くならやりやすかったからサ。
それに、手元にいいパシリが来るのはこちらとしても僥倖なのサ!」
ケケケ、良い機会なのサ〜!そう満足したとでもいった様子。……またあの書物整理をやらされるのか。
内心げんなりしつつも、改めて自分の物になる家を眺める。月の光がぼんやりと家の輪郭を映し出して、その光景の非現実的なさまに思わず目を瞠った。
「……Aちゃん、月がどうかしたの?もしかしてAちゃんが元居たとこにはなかった?」
「あ、いえ。ありました。……けど、顔のある月はないです……」
「ふ〜ん。変なのサ」
いや、顔のある月はそうそうないだろう。自分の常識との乖離を実感し、がくりと気が抜けるような心地がした。
月を見つめる。
──相変わらず不敵に微笑んでいる。
不思議と、懐疑心のようなものは湧かなくなっていた。
…………
「あの、」
「……何なのサ?」
彼は何処から出したのか、昼時と同じ三色の球を足で玩んでいた。気怠げに伏せられている目は、何を考えているのかわからない。
そんな道化師の瞳を見つめて、頭を下げる。
「……今日からお隣同士、よろしくお願いします。マルクさん」
そのまま頭を上げると、いかにも「気味が悪い」というように顔を歪ませたマルクさんが目の前にいた。
「おま──」
「Aちゃーん!早くお部屋どんなのか見ようよっ!」
マルクさんの言葉は、カービィのそれで遮られる。……そんなに変だっただろうか。自分なりに気持ちを表現したつもりだったのだが。
「あの、何か──?」
「……あー……別に何でもないのサ。早くそっち行けサ」
「は、はい……?」
目線をさらに逸らされた上、ワントーン低くなった声に困惑するが、それ以上の答えは望めそうにもないのでカービィの元へと走っていった。
身体に受ける風が、どことなく綺麗で涼しい。清浄という言葉が似合うだろうか。
自分の中にある汚らしい蟠りが、なんだか洗われていくような気がした。
走ってこちらの元を離れていくAを惘々とした目つきで眺める。
「……ホンット、ヘンなヤツ」
ぽつりと零し、足元の小石を軽く蹴った。
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Taruru(プロフ) - アルキメデスさん» コメントありがとうございます!凄くびっくりしました。私も好きな人の小説に影響されて作った動機があるので、自分がそちら側になるとは思わずびっくりしつつもとても嬉しいです!!このご時世で息苦しさを感じる事もあると思いますが、お体ご自愛くださいね。 (2021年4月1日 2時) (レス) id: d7dc74b70c (このIDを非表示/違反報告)
Taruru(プロフ) - THINKURU★さん» コメントありがとうございます!私の小説は好きだと思った表現を継ぎ接ぎでくっつけているだけなので、あまり参考にはならないかと……応援の言葉励みになります、ありがとうございます! (2021年4月1日 2時) (レス) id: d7dc74b70c (このIDを非表示/違反報告)
Taruru(プロフ) - 柏木信子さん» 返信が遅くなり本当に申し訳ありません…。ありがとうございます!時間をかけて作っているものなので、とても励みになります。 (2021年4月1日 2時) (レス) id: d7dc74b70c (このIDを非表示/違反報告)
アルキメデス - taruruさんの小説、毎回読ませて貰ってます…!私、taruruさんをきっかけに小説を書き始めたのです…!やっぱりtaruruさんの作品は素晴らしいものばかりですね…!これからの季節、コロナも含めた体調不良にお気をつけながら更新頑張って下さい!長文失礼しました…! (2021年3月29日 8時) (レス) id: 6d5eb1e246 (このIDを非表示/違反報告)
THINKURU★(プロフ) - …taruruさんの作品毎回楽しく読ませていただいてます!質問なんですが…どうしたらそんなに上手いこと情景描写出来るんですかァァァァァァ! (2020年4月15日 1時) (レス) id: 258f8cb9be (このIDを非表示/違反報告)
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