強い警戒心 ページ8
「え、っと」
「なにボサーッとしてるのサ、早く手を動かして整理するのサ」
私は今、手に大量の書物をもって立ち尽くしていた。ここはマルクが所有しているという書庫なのだが、どういうわけかそこに連れられ延々と書類整理をさせられている。渡された本の中には、埃を被っている物もあった。
「魔法って意外と操るのが難しくて、なかなかこういうちまちました作業は本を運んでいる途中に落としちゃったりして痛めちゃうのサ。めんどくさいからずっと放置しちゃってたんだけど、ちょうどいい時にキミみたいな魔法が使えないヤツが来たから利用させてもらったのサ〜！」
ケタケタともはや子気味良い笑いを浮かべるマルクは、淡々と横で書類整理を進める。
まさか、こんな事を頼まれるとは。完全に予想外の事態に頭は混乱してしまっていた。てっきり――
「なに、もしかしてボクがホントにヒドイ事をキミに強要すると思ってたのサ？」
「…………」
マルクはわざとらしくため息を吐き、
「全く、キミのボクに対する印象どんだけヒドイのサ？ボクなーんにもキミに対してしてないのサ。警戒心が強いのは良いことだと思うけど、さすがに傷つくのサ……」
口をとがらせて不満をあらわにするマルク。いや、そうやって演技ぶった態度とるから警戒しているだけなんだけど……
「まあ、少なくともここみたいなあくびが出るほど平和な場所では警戒心なんて機能しないのサ。良くも悪くも人がいいヤツしかこの星はいないのサ、まあ外から来たヤツはそうとも限らないけどな」
そうだ、青いフード被ったタマゴみたいなやつは要注意なのサ、アイツボクみたいに人を騙すの上手いから、キミみたいなバカ正直なやつは簡単に引っかかちゃうのサ。
彼はそう言葉をつらつらと紡ぎながらいつの間にやら本を流し読みしている。
警戒心、という言葉に妙に馴染みがあった。確かに私はだれに対しても引け腰で、必要以上に距離をとる癖がある。
でも、今までここで出会った者たちはどうだっただろう。マルクは――まあ考えないとして、アドレーヌやカービィ、ワープスターで飛んでいるときに見かけた住民たち。みんな、私や他人に対して親しげにいつも接していた。当の私は、相手に近づこうともしなかった。
今まで疑問にも思っていなかったけれど、私の接し方は果たして相手に敬意を払っていると言い切れるのだろうか。
書類整理をしながら、粛として考える。
マルクは、そんな私の様子を何も言わず眺めていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 37人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Taruru(プロフ) - アルキメデスさん» コメントありがとうございます！凄くびっくりしました。私も好きな人の小説に影響されて作った動機があるので、自分がそちら側になるとは思わずびっくりしつつもとても嬉しいです！！このご時世で息苦しさを感じる事もあると思いますが、お体ご自愛くださいね。 (2021年4月1日 2時) (
レス) id: d7dc74b70c (このIDを非表示/違反報告)
Taruru(プロフ) - THINKURU★さん» コメントありがとうございます！私の小説は好きだと思った表現を継ぎ接ぎでくっつけているだけなので、あまり参考にはならないかと……応援の言葉励みになります、ありがとうございます！ (2021年4月1日 2時) (レス) id: d7dc74b70c (このIDを非表示/違反報告)
Taruru(プロフ) - 柏木信子さん» 返信が遅くなり本当に申し訳ありません…。ありがとうございます！時間をかけて作っているものなので、とても励みになります。 (2021年4月1日 2時) (レス) id: d7dc74b70c (このIDを非表示/違反報告)
アルキメデス - taruruさんの小説、毎回読ませて貰ってます…!私、taruruさんをきっかけに小説を書き始めたのです…!やっぱりtaruruさんの作品は素晴らしいものばかりですね…!これからの季節、コロナも含めた体調不良にお気をつけながら更新頑張って下さい!長文失礼しました…! (2021年3月29日 8時) (レス) id: 6d5eb1e246 (このIDを非表示/違反報告)
THINKURU★(プロフ) - …taruruさんの作品毎回楽しく読ませていただいてます！質問なんですが…どうしたらそんなに上手いこと情景描写出来るんですかァァァァァァ！ (2020年4月15日 1時) (レス) id: 258f8cb9be (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
