“元”魔獣の少女は ページ8
──自分ながらに、大人気ないと思った。
大王がAに惚れているとは常々耳にしてはいたが、いざ目の当たりにするとどうしても抑えられなかった。
Aが大王に手を包まれた時、途端にぶわりと居心地の悪い感覚が体を覆った。
あの六花のように白い手の平に触れていいのは、私だけ──そんな言葉が頭の中に響く。顔か何かに出てしまっていたのだろう。エスカルゴンがこちらに目を向けた時、あからさまにギクリと目を見開いた。
そして、先程のような状況に至る。誰も居なくなった王室に控えめな彼女の声が響く。
「卿？」
「……何だ」
「あの、さっきの、恋人って──」
ああ、情けない。情けない、と思うのに。
「妬いたんだ」
「えっ」
「騎士としての自分が、どうでも良くなる程……彼に対して、嫉妬をしてしまったんだ。
そなたに触れていい唯一は、私だけであると──そう、思ってしまった」
小さく口を開けて静かに私の言葉を待つ彼女。
「以前なら、感情を表に出すなど断じてしなかった。気高き星の戦士として、あってはならない事であると、そう思っていたはずだった
だが、A。そなたのことになると、抑えが効かなくなる。こんな私は駄目だろうか──」
言い終わらないうちに、己の手が彼女のそれで包まれる。手袋越しでも仄かに感じる暖かさは、私の心をいつでも落ち着かせる。
見上げれば、あの時のような笑みを浮かべて──
「卿。私は、気高い戦士の卿だけを好きになったわけじゃありません。
いつもまっすぐ物を見つめて、守りたいものを守って、どこか抜けてる所もあって……今こんな風に、大人気なくも私に妬いてくれるメタナイト卿が、私の愛した卿なんですから」
ああ、やっぱりそなたの瞳に映る世界の物は、どんなものでも一等価値のあるものに思える──
「A」
「はい」
「愛している」
「ふふっ、私も愛していますよ、メタナイト卿」
今まで自分の姿をよく思っていなかったが、彼女の目に映る私が、彼女が愛した私がこんな風に彼女の目に映っているのなら悪くない。
そんな鼻に付くようなセリフを、目を閉じながら思った。
愛してる、なんて以前の私なら聞いただけで顔を顰めるまではいかなくとも、良い気分にはならなかった言葉だったろう。
だけど、私はこの言葉以上に愛を示す言葉を知らない。何度も言ったら、意味が薄れてしまうように思うけど──私のこの想いは、不変のものだ。
だから、いつまでも彼にこう言おう──愛してます、と。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 32人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ソウル・ハート - メタナイトカッコいいなぁ (2023年4月3日 8時) (
レス) id: de10e37100 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ - メタ様が可愛かったです！ガチでニヤケが止まらない…また星カビ出たらみますね！ (2022年3月11日 20時) (レス) @page10 id: 1fcc16bd5c (このIDを非表示/違反報告)
柏木信子(プロフ) - はわわわわ…すごく面白かったです…!!ニヤニヤが止まりませんでした！ (2019年9月2日 18時) (レス) id: 76444309d4 (このIDを非表示/違反報告)
Taruru(プロフ) - ランドルト環さん» コメントありがとナス！ おっ、(こんなとこで語録出して)大丈夫か大丈夫か？ 次回作も読んでくれよな〜頼むよ〜 (閲覧ありがとうございました。更新速度は遅くなると思いますが、次回作も読んでいただけると嬉しいです。) (2019年4月27日 22時) (レス) id: d72b270231 (このIDを非表示/違反報告)
ランドルト環(プロフ) - はえ〜すっごい面白い…メタナイト卿がかっこよすぎて涙がで、出ますよ…。神作品だってはっきりわかんだね。やっぱTaruruさんの小説を…最高やな！新しい作品も書いて下さい！なんでもしますから！ (2019年4月23日 14時) (レス) id: 4b90a239d3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
