逃げる ページ1
「大丈夫か」
しばらく咳き込んでいると、そう声をかけられた。濡れた横髪をかき上げ、小さく掠れた返事をした。両手を床につき、目線を下げれば割られたガラスが薄闇の中で弱く輝いて見える。呼吸が落ち着いてきた時、卿に尋ねられた。
「そなたの首に刺さっているそれは──どのようにして外すか分かるか」
「……えっと、確か機械の裏にスイッチが」
カスタマーが行っていた動作を追憶し、詰まりながらも答える。頭がふわふわとして、朧げだ。彼はガラスの破片を避けながらも、素早く機械の裏に移動する。それを私はぼーっと見つめている。というのも、先程まで培養液の中に居たものだから、朦朧とした意識が尾を引いているのだ。
手のひらを広げてぼそりと呟くように魔法を唱えれば、普段より威力は減っているが、魔力は残っていたようだった。
そういえば、培養液から出されてから、会話らしい会話をしていない気がする。彼はどこか行動を急いているように見えた。
「もう時間がない」
「え」
「この要塞は数分後に爆発する。逃げるためにはそなたの魔法が必要なのだ。──いけるか」
「……大丈夫です」
返事をすると同時に、頸に刺さっていた機械が力が抜けたようにぐたりと離れる。注射を打たれたようなちくりとした痛みを感じ、顔をしかめた。
「倉庫の出口に立っていてくれ」
「はい」
装置に背を向けて出口へ足を踏み出す。ブチブチッ、と火花が弾ける音と共に何かを引きちぎるような音が聞こえたけれど、私は振り返らなかった。
下を見ると底が見えない程の大穴が開いているのがわかり、思わず息を呑んだ。あそこに落ちたらなんて、想像もしたくない。
「A。大丈夫か」
「あ……はい。 卿、捕まってて下さい」
こちらへ移動してきた彼の体を抱き上げ、集中して魔法を唱える。初めて村にきた時使った魔法で、体が浮き上がるのを感じた。思い切り勢いをつけて、空気を蹴り上げる。体は重力を物ともせず宙に浮いた。
「転送装置はあっちだ。向かってくれ」
「はい」
卿が指した方向に従って、速度を上げて目的の地へと向かっていった。
カービィは──あの子は、大丈夫だろうか。ここに来たならば、きっとナイトメアを倒しに行っているのだろう。そして……。
思考している時、ふと疑問が浮かび卿に問うた。
「あの、卿。どうして私のいるところがわかったんですか?」
「ナックルジョーが、ナイトメアの機械を乗っ取っていてな──それを利用して居場所を知らせてくれた」
33人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ソウル・ハート - メタナイトカッコいいなぁ (2023年4月3日 8時) (レス) id: de10e37100 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ - メタ様が可愛かったです!ガチでニヤケが止まらない…また星カビ出たらみますね! (2022年3月11日 20時) (レス) @page10 id: 1fcc16bd5c (このIDを非表示/違反報告)
柏木信子(プロフ) - はわわわわ…すごく面白かったです…!!ニヤニヤが止まりませんでした! (2019年9月2日 18時) (レス) id: 76444309d4 (このIDを非表示/違反報告)
Taruru(プロフ) - ランドルト環さん» コメントありがとナス! おっ、(こんなとこで語録出して)大丈夫か大丈夫か? 次回作も読んでくれよな〜頼むよ〜 (閲覧ありがとうございました。更新速度は遅くなると思いますが、次回作も読んでいただけると嬉しいです。) (2019年4月27日 22時) (レス) id: d72b270231 (このIDを非表示/違反報告)
ランドルト環(プロフ) - はえ〜すっごい面白い…メタナイト卿がかっこよすぎて涙がで、出ますよ…。神作品だってはっきりわかんだね。やっぱTaruruさんの小説を…最高やな!新しい作品も書いて下さい!なんでもしますから! (2019年4月23日 14時) (レス) id: 4b90a239d3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ