五話 ページ6
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離れにある主の部屋は、いつも濃い霧に包まれていて幻想的だ。
縁側からは、主がいつも昼寝をしている大きな桜の木が一番よく見える。
そんな、穏和な雰囲気な縁側に俺はただ突っ立っていた。
ーー 今、声が、襖の奥で、
視線は障子に塞がれるし、中を覗いたりなんてしない。けれど、確かに聞こえた声。
弟の声と、主の。
そっと、少しだけ引き戸にかけた指が震える。
こくんと生唾を飲んだ喉が異常に乾いていた。
ーー 「あ、薬研」
停止したままの俺の名を呼んだのは、今襖の奥にいたはずの自分の主だった。
即座に振り向くと大将はにっこりと微笑んで俺に近づく。その不気味なほど妖魅な瞳に畏怖した身体は無意識に強張った。
藤色の瞳。黒色の髪。
何処となく、顕現された自分に似ている。
「……資料、頼まれてたやつ」
長谷部が夜な夜なまとめた、最近の戦績。
流石に今日は寝かせねぇと疲労度が高すぎるから、無理やり薬を飲ませて寝かせた。
主はそれを受け取ると、少しだけ目を通してから開いたままの襖の奥に目をやって、もう一度俺を見る。
「薬研、葉月が寝つけないって僕のところに来てね。寝てしまったんだけど、でもここに置いておくわけにもいかないんだ。悪いんだけど、大部屋に連れて帰ってやってくれるかな？」
ーー葉月が？
襖に近づいて中を覗く。
暗闇の中にぼんやりと蝋燭か淡い光を漏らしていた。その光に包まれて、葉月は眠っていた。
「ん、わかった。悪りぃな大将、弟が世話になっちまって」
微笑んで見上げると、大将は首を振った。
「僕はいいんだよ。いつものことだから。」
(へぇ。いつものこと、ね)
そこにはつけ込まず、本当に寝ているらしい葉月の身体を抱き上げた。
俺よりも小さく、軽い身体は難なく持ち上がって腕の中に収まる。
「ゆっくり休めよ、大将」
「ありがとう。お休み薬研」
踵を返し、本丸へと繋がる橋を歩く。少し下には池があって、桜の花びらの隙間から錦鯉の鮮やかな赤が覗く。
ーーまだちっさい時、一緒に餌やったな
小さい手が自分を引いてここへ連れてこられた日を思い出す。
「…う、…ん…」
池に映る自分を眺めていた。少しの呻き声に我にかえると、葉月が身を縮めていた。
「ん、早く帰ろうな」
そっと頭を撫でて、足を進めた。
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音琥(プロフ) - すごい感動しました・・・！僕（僕ッ娘です)も薬研の小説を書いてるんですがちょっとまだ設定が不安定で（） こうやってお話ができあがってるの、すごいなと思いました（） 尊敬してます。薬研の作品・・・Tauさんのが一番好きです笑 (2019年8月24日 9時) (
レス) id: 13c9a9eef6 (このIDを非表示/違反報告)
Tau(プロフ) - 霊界堂銀さん» 返信が遅れてしまい、申し訳ありません…コメントありがとうございます。泣いて下さるなんて… 薬研の寝たふりの場面は、重要な場面だったので頑張って書いた甲斐があります。最後までお付き合いありがとうございました！ (2017年8月19日 21時) (レス) id: e144e48524 (このIDを非表示/違反報告)
霊界堂銀(プロフ) - すごい勢いで泣きました。もう薬研のねたふりのところがヤバかったです！これからもがんばってください！応援しています！ (2017年7月15日 18時) (レス) id: 3572e18a01 (このIDを非表示/違反報告)
Tau(プロフ) - まるさん＠地球領さん» 初めまして、コメントの返信が遅れてしまい申し訳有りません… 本当ですか！感動を与えられるような小説が書けて良かったです。もし気に入っていただけたのなら、また読み返して見て欲しいです^ ^ 最後までお付き合いありがとうございました (2017年4月30日 21時) (レス) id: 94fb074fe3 (このIDを非表示/違反報告)
まるさん＠地球領(プロフ) - この作品で、刀剣乱舞の小説で初めて泣きました…！感動的なお話、有難うございました、！(＠⌒ー⌒＠ (2017年2月9日 13時) (レス) id: 16bde0c68d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Tau | 作成日時：2015年12月5日 1時
