四十五話 ページ47
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何か言った気がしたけれど、構わずその泣き面の葉月に口付けた。
「っふ、ぅ！」
肩を叩く手も、震える背中も抱きしめて口付けた。
唇、涙の味がする眦、真っ白で柔らかな頬。
一つ一つが、熱を失くして冷たくて。自分の熱を移すように何度も。言葉を発さずとも伝わるように。
目を合わせると、白かった頬は朱を帯びて、冷たかった涙目は熱くなって自分を見上げていた。
震える唇。不安げに逸らされた瞳から、また涙が落ちた。
「葉月」
優しく名前を呼ぶ。震える手が耳を塞いで首を振った。
「聞いてくれ」
「ぃ、やだ…！」
手で両耳を塞いで、何度も首を振る。
葉月、名前を呼ぶといやだとか言うなとか、そんなことしか言わなかった。
ーー なら、
きつく閉ざされた唇に、もう一度口付ける。
耳を塞ぐ手を上から包んで、唇の隙間に舌を這わせて中を熱で包む。
見開かれた瞳からまた涙が頬を伝う。
熱い吐息で頭がおかしくなりそうだ、酔ったみたいにクラクラする。それでも続けた。態とらしく音を鳴らして、耳から手を離そうとする葉月の小さな手を包み込んだまま。
「ん、ぅっ…いやっ、離し…っは」
途切れ途切れと言葉すら愛おしい。
好きだ、葉月、その言葉を伝えるように舌を舐めとって何度も唇を合わせて、柔らかな朱を緩く噛んだりして。力が入らずするりと落ちた葉月の手は、恥かしさからふるふると震えて俺の手を握った。
唇を離せば繋がった銀の糸。
葉月の潤んだ瞳をもう一度口付け、真っ赤になった耳に、伝えた。
「お前の不器用な優しさも、泣き虫なところも、一途で優しいところも、人の為に戦う強さも、独りから逃げる弱さも、全部、好きだ。
弟としてじゃないーーわかるよな」
そう言ってもう一度口付ける。
熟れた果実のように真赤になった唇は柔らかく、朱を帯びた頬にまた一筋の蜜が落ちた。
「…僕、夢見てるの、かな」
独り言のようにそう言って、俯いた葉月が俺から手を離した。
「幸せ、過ぎて…苦しい」
春の甘い風が桜の花弁を舞わせる。
祝福するように舞い落ちた花弁が、池を桜色に染めた。
「なあ」
優しく頭を撫でて、上を向かせる。
おずおずと視線を上げた葉月に、自然と笑ってしまった。
「お前が欲しい」
もう一度、奪い去る。
次はもう誰にも渡さない。もう二度と。
「…やるよ、全部」
そう言って綻んだ花は、何よりも綺麗だった。
終
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音琥(プロフ) - すごい感動しました・・・！僕（僕ッ娘です)も薬研の小説を書いてるんですがちょっとまだ設定が不安定で（） こうやってお話ができあがってるの、すごいなと思いました（） 尊敬してます。薬研の作品・・・Tauさんのが一番好きです笑 (2019年8月24日 9時) (
レス) id: 13c9a9eef6 (このIDを非表示/違反報告)
Tau(プロフ) - 霊界堂銀さん» 返信が遅れてしまい、申し訳ありません…コメントありがとうございます。泣いて下さるなんて… 薬研の寝たふりの場面は、重要な場面だったので頑張って書いた甲斐があります。最後までお付き合いありがとうございました！ (2017年8月19日 21時) (レス) id: e144e48524 (このIDを非表示/違反報告)
霊界堂銀(プロフ) - すごい勢いで泣きました。もう薬研のねたふりのところがヤバかったです！これからもがんばってください！応援しています！ (2017年7月15日 18時) (レス) id: 3572e18a01 (このIDを非表示/違反報告)
Tau(プロフ) - まるさん＠地球領さん» 初めまして、コメントの返信が遅れてしまい申し訳有りません… 本当ですか！感動を与えられるような小説が書けて良かったです。もし気に入っていただけたのなら、また読み返して見て欲しいです^ ^ 最後までお付き合いありがとうございました (2017年4月30日 21時) (レス) id: 94fb074fe3 (このIDを非表示/違反報告)
まるさん＠地球領(プロフ) - この作品で、刀剣乱舞の小説で初めて泣きました…！感動的なお話、有難うございました、！(＠⌒ー⌒＠ (2017年2月9日 13時) (レス) id: 16bde0c68d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Tau | 作成日時：2015年12月5日 1時
