四十二話 ページ44
.
刻一刻と告げる秒針。
誰かの気配を感じて薄らと目を開けかけたがすぐに閉じた、そこに居たのは葉月だった。なぜ慌てて閉じたかはわからないが、いつもとは比べ物にならない真剣な眼差しで自分を見るのだから、目など合わせられる筈がない。
ずっといたのだろうか、ならなんで気づかなかったんだ。
只管駆け巡る思考回路の中、また新たに感じた気配は真横の襖。
ーー長谷部？
直感的に思ったが、そちらもまた顔は出さずそこに静かに居座った。
なんだ、なんで俺っちはずっと寝てたんだ。
体が重い、怠い。何してたんだっけ、今日何日だ。
思い出せそうで、思い出せない。
深く考えるほど頭にギリギリと頭痛が走る。それに僅かに眉を顰めた瞬間、息を吸い込む音が聞こえた。
「…あんた、寝てんだろ。なら、これ聞こえないんだよな。」
葉月の声だ。
起きている、なんて今いえばきっと今から言おうとしていることを胸の内に閉じ込めてしまう。
狸寝入りを決め込んで、息をひそめた。
「あんたの優しい声が好き。低くて落ち着く言葉が好き。弟のことを真っ先に考えてくれる優しさが好き。みんなに優しいところとか、少し意地悪なところも。非番のときでも誰かを手伝って、みんなに信頼されてて、頼りになって、こんないい兄をもったって誰にでも自慢できる。大好き。兄として…いや、あんたのことが、兄じゃなくて、薬研藤四郎が、好き。」
「ずっと…好きだった」
思わず声をあげそうになった。
背中越しに聞こえる震えがちな声、吐息のように小さなその声が今、好きだと伝えた。
ーー嘘、だろ
人に好きと嫌いがあるのは致し方ないことだと心得ていた。だから、たとえ兄弟だとしてもそれはあり得る話だからと。
ただ、自分が一方的に思っているだけなのだともう諦めた筈が。
ーーなあ嘘だろ、俺、夢見てんのか
葉月が俺のことが好きと言った。
声も、言葉も、好きだと。
心が熱くでどうにかなりそうだ、今すぐ起き上がって思いっきり抱き締めたい。その言葉に答えたい。ずっと、同じ思いでいたことを伝える術なんて限られている。
情けねぇな、俺から言おうとしたのに。
そのあとすぐに、葉月は部屋から出て行った。おずおずと片目を開くとそこには何もなく、片手で両目を抑えて長くため息を吐いた。
「…嘘だろ」
まさか、本当にーー
「まさか寝たふりでやり過ごすとは、お前も小さい男だな」
→
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 647人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「刀剣乱舞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
音琥(プロフ) - すごい感動しました・・・！僕（僕ッ娘です)も薬研の小説を書いてるんですがちょっとまだ設定が不安定で（） こうやってお話ができあがってるの、すごいなと思いました（） 尊敬してます。薬研の作品・・・Tauさんのが一番好きです笑 (2019年8月24日 9時) (
レス) id: 13c9a9eef6 (このIDを非表示/違反報告)
Tau(プロフ) - 霊界堂銀さん» 返信が遅れてしまい、申し訳ありません…コメントありがとうございます。泣いて下さるなんて… 薬研の寝たふりの場面は、重要な場面だったので頑張って書いた甲斐があります。最後までお付き合いありがとうございました！ (2017年8月19日 21時) (レス) id: e144e48524 (このIDを非表示/違反報告)
霊界堂銀(プロフ) - すごい勢いで泣きました。もう薬研のねたふりのところがヤバかったです！これからもがんばってください！応援しています！ (2017年7月15日 18時) (レス) id: 3572e18a01 (このIDを非表示/違反報告)
Tau(プロフ) - まるさん＠地球領さん» 初めまして、コメントの返信が遅れてしまい申し訳有りません… 本当ですか！感動を与えられるような小説が書けて良かったです。もし気に入っていただけたのなら、また読み返して見て欲しいです^ ^ 最後までお付き合いありがとうございました (2017年4月30日 21時) (レス) id: 94fb074fe3 (このIDを非表示/違反報告)
まるさん＠地球領(プロフ) - この作品で、刀剣乱舞の小説で初めて泣きました…！感動的なお話、有難うございました、！(＠⌒ー⌒＠ (2017年2月9日 13時) (レス) id: 16bde0c68d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Tau | 作成日時：2015年12月5日 1時
