三十七話 ページ39
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反転する視界。布擦れの音と、最後に見たのはーーーー 悲痛に歪んだ表情をしたあいつ。
今僕は、目が何も写せないような暗闇にいる。
そんな気がする。 真っ暗なんだ、何も見えない。
「…は……」
僅かに手を伸ばすと、何かに当たる。
それがゆっくり、僕の手の間に入り込んでくる。五本の指の間を縫って、滑らかに。
たったそれだけなのに、僕の息は弾むように上がっていった。ふ、は、と苦しくなっていく喉が、渇いていて、むずがゆくて咄嗟に左手で首を掴むもそれを何か別のものが阻止してくる。
「苦し…」
僕は一体どこに迷い込んだんだ。
薬研はどこに行ったんだろう。あいつのそばに居たはずなのに。あの一瞬の安堵はもうここに在らず。また不安と恐怖に押しつぶされそうになって、胸の辺りが痛くなる。
なのに、暗闇でわからないのに、僕の右手を包む掌はどこか懐かしみのある暖かい掌だった。
ーーーー 知ってる
この掌は。
「薬研…？」
刀を握る手。指の付け根と掌の真ん中辺りの皮が何度も剥がれて、硬くなった手。
「薬研だろ、なぁ…」
声が震える。阻止された左手がもがいて、首へと伸びる。それをまた強く押さえられて、何も見えない瞳から熱が溢れた。
“君が壊れる仕掛けだよ”
壊れ方、なんて、あいつがすんなりと僕を折ってしまう訳がないのだ。掌から熱は伝わり、唇へーー首へーー足へーー全てに伝わってくる。
波のように強弱をつけて僕の体を溶かしてくる。
そうできるのは
薬研しかいないのだ。
「っなぁ、なんか言えよ！手放せよっ！」
なら僕が見えているはずなんだ。
僕の目は何故か闇がかかって何も見えないけれど、薬研は。なのに、なんで。
ーー僕がきらいなんて言ったから…
ひゅ、と喉が過呼吸のように薄い酸素を僅かに吸い入れてそれの倍吐き出す。
苦しくて、苦しくて。それを逃すように目はどんどん熱くなる。
違う。
ちがう、僕は…僕はただ…
「っ薬研兄さん…！」
悲鳴のように名を呼ぶのに、何も発さない目の前にいるはずの薬研に、今まで感じなかった恐怖を感じた。
ここにいるのがもし薬研じゃなかった、ら…
見捨てられたら
捨てられたら
もしここにいるのが主だったら
あの蛇が、笑っていたら…？
あ、れ
薬研の声が
わからない、思い出せない。
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音琥(プロフ) - すごい感動しました・・・！僕（僕ッ娘です)も薬研の小説を書いてるんですがちょっとまだ設定が不安定で（） こうやってお話ができあがってるの、すごいなと思いました（） 尊敬してます。薬研の作品・・・Tauさんのが一番好きです笑 (2019年8月24日 9時) (
レス) id: 13c9a9eef6 (このIDを非表示/違反報告)
Tau(プロフ) - 霊界堂銀さん» 返信が遅れてしまい、申し訳ありません…コメントありがとうございます。泣いて下さるなんて… 薬研の寝たふりの場面は、重要な場面だったので頑張って書いた甲斐があります。最後までお付き合いありがとうございました！ (2017年8月19日 21時) (レス) id: e144e48524 (このIDを非表示/違反報告)
霊界堂銀(プロフ) - すごい勢いで泣きました。もう薬研のねたふりのところがヤバかったです！これからもがんばってください！応援しています！ (2017年7月15日 18時) (レス) id: 3572e18a01 (このIDを非表示/違反報告)
Tau(プロフ) - まるさん＠地球領さん» 初めまして、コメントの返信が遅れてしまい申し訳有りません… 本当ですか！感動を与えられるような小説が書けて良かったです。もし気に入っていただけたのなら、また読み返して見て欲しいです^ ^ 最後までお付き合いありがとうございました (2017年4月30日 21時) (レス) id: 94fb074fe3 (このIDを非表示/違反報告)
まるさん＠地球領(プロフ) - この作品で、刀剣乱舞の小説で初めて泣きました…！感動的なお話、有難うございました、！(＠⌒ー⌒＠ (2017年2月9日 13時) (レス) id: 16bde0c68d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Tau | 作成日時：2015年12月5日 1時
