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三十話 ページ32

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事の発端は、今日の明けごろ。



まだ朝陽も顔を出さない、そんな薄明るい朝のこと。




連日の出陣のせいで、幾分か疲れはあったがなんとか持ちこたえていた。


右腕が捥がれてから休んでいた分が全て回ってきたようにも思えた。

だが刀としての使命と思えば、苦痛ではなかった。ただ、気になることといえば一つ。主がまたねっとりと絡みついてきたことくらいだ。





そんな中。

幸か不幸か、兄弟には本当に知られていないらしい肉体的な関係は、そろそろ自分の心を蝕み腐敗させようとしていた。




元といえば、僕が近づいた。

たった一つ、今思えば主なんていう大きな羽に匿って欲しかっただけなのかもしれない。




弱く小さい僕にとってはそれほど大きな傷だった。





だが、そろそろ本当に引かねばならない。

心が壊れてしまいそうだ。僕が想っているのは主ではないはずなのに、薬研兄さんのはずなのに、段々と霧がかかって行く。





だから、言ったんだ。主に。






「主には感謝してる。だからもう、こういうのは、今日からやめようと思ってる」






その一言で、主は眉を吊り上げた。


そして、その後の記憶はない。ただ、小さな箱のような中にいた気がする。主の匂いしかない箱の中。なにもできない。力も使えない。




そしてそれは起こった。


主は僕の身体の隅々まで蛇を使って熱をもたせた。どうやら主は蛇遣いらしい。




薬研なんかに渡さない

君は僕のものだろう?

自分からしておいてなにを今更



…どうしても、というのなら、君の記憶をまた消して、薬研という存在も消してやろうか






その一言に、熱で溶けた脳が僅かに反応したのが救いだった。


記憶やらなんやら、別にどうでもいい。僕は昔なんて興味なかったから。けれど、薬研を消すってどういうことだよ。



「そんな脅しで僕が堕ちるとでも?」




主の殺意は止まない。



どんどん身体は熱くなって、異常なほどに苦しくなる。けれど、主の呪文のようなその言葉に頑なに頷かなかった。






そして、この有様だ。






明け空。朱色と群青が混じり合う、まだ星も消えない空。



僕は庭にただ蹲った。

この熱が冷めることを願いながら。






背後で蛇がほくそ笑み、早く来いと手招きをしていることに、気づかないまま。



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設定タグ:男主 , 薬研藤四郎 , 刀剣乱舞
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音琥(プロフ) - すごい感動しました・・・!僕(僕ッ娘です)も薬研の小説を書いてるんですがちょっとまだ設定が不安定で() こうやってお話ができあがってるの、すごいなと思いました() 尊敬してます。薬研の作品・・・Tauさんのが一番好きです笑 (2019年8月24日 9時) (レス) id: 13c9a9eef6 (このIDを非表示/違反報告)
Tau(プロフ) - 霊界堂銀さん» 返信が遅れてしまい、申し訳ありません…コメントありがとうございます。泣いて下さるなんて… 薬研の寝たふりの場面は、重要な場面だったので頑張って書いた甲斐があります。最後までお付き合いありがとうございました! (2017年8月19日 21時) (レス) id: e144e48524 (このIDを非表示/違反報告)
霊界堂銀(プロフ) - すごい勢いで泣きました。もう薬研のねたふりのところがヤバかったです!これからもがんばってください!応援しています! (2017年7月15日 18時) (レス) id: 3572e18a01 (このIDを非表示/違反報告)
Tau(プロフ) - まるさん@地球領さん» 初めまして、コメントの返信が遅れてしまい申し訳有りません… 本当ですか!感動を与えられるような小説が書けて良かったです。もし気に入っていただけたのなら、また読み返して見て欲しいです^ ^ 最後までお付き合いありがとうございました (2017年4月30日 21時) (レス) id: 94fb074fe3 (このIDを非表示/違反報告)
まるさん@地球領(プロフ) - この作品で、刀剣乱舞の小説で初めて泣きました…!感動的なお話、有難うございました、!(@⌒ー⌒@ (2017年2月9日 13時) (レス) id: 16bde0c68d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Tau | 作成日時:2015年12月5日 1時

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