序章 ページ1
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ーー瞳の色が、似てると思って
まとわりつく足をほどいて立ち上がる。
緩い体液が身体から堕ちていく感覚に息を呑み、散らばった寝間着をかき集めて震える手で前を合わせる。
いつまでも握り締められた帯をその手から奪い取って、主の部屋の襖を開いた。
(夜桜…)
ここは本丸ーー僕が随分前に招かれた本丸。
今は、十二番目の月。師走。
季節は冬だけど、この本丸は春夏秋冬関係なく春の景趣だ。というのも、僕が来てほんの少しした頃に主が春の桜に一目惚れしてそうしてしまった。
別に嫌じゃない。桜は、好きだ。
月の光に照らされて妖魅に揺れる桜の花びらが、自分とはまるで逆で鏡のようだった。
太ももを伝う体液に一気に思考は現実へ引き戻される。う、と小さく疼いてからゆっくりと溢れぬように歩いた。
ーーあいつの瞳に、似てて、それで、
自分自身に言い訳をする。
そうだ。僕は、別に、悪くない。
ただ主の瞳の色があいつと同じ菫色で
主の優しい言葉に溺れて
思い出せないくらい滅茶苦茶にされて
後悔、してる。
「馬鹿じゃねぇの…」
粘る髪の毛をくしゃくしゃに掻き回して、ため息をついた。
ーー……葉月
「あ…!う、…」
途端に緩んだ身体から漏れた体液にヒクつく喉から淡く吐息が漏れた。
こんな夜中に、訊かれている筈はないのに、口を抑えて辺りを見渡す。
馬鹿だ、馬鹿だ、消えたい。
ドクドクと痛痛しく、鳴り止まない心臓の鐘の音が脳髄を反響する。ゆっくりと進めていく足が、震えていた。
桜だけが、全部見透かして、知らぬふりをして月の光を浴びていた。
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音琥(プロフ) - すごい感動しました・・・!僕(僕ッ娘です)も薬研の小説を書いてるんですがちょっとまだ設定が不安定で() こうやってお話ができあがってるの、すごいなと思いました() 尊敬してます。薬研の作品・・・Tauさんのが一番好きです笑 (2019年8月24日 9時) (レス) id: 13c9a9eef6 (このIDを非表示/違反報告)
Tau(プロフ) - 霊界堂銀さん» 返信が遅れてしまい、申し訳ありません…コメントありがとうございます。泣いて下さるなんて… 薬研の寝たふりの場面は、重要な場面だったので頑張って書いた甲斐があります。最後までお付き合いありがとうございました! (2017年8月19日 21時) (レス) id: e144e48524 (このIDを非表示/違反報告)
霊界堂銀(プロフ) - すごい勢いで泣きました。もう薬研のねたふりのところがヤバかったです!これからもがんばってください!応援しています! (2017年7月15日 18時) (レス) id: 3572e18a01 (このIDを非表示/違反報告)
Tau(プロフ) - まるさん@地球領さん» 初めまして、コメントの返信が遅れてしまい申し訳有りません… 本当ですか!感動を与えられるような小説が書けて良かったです。もし気に入っていただけたのなら、また読み返して見て欲しいです^ ^ 最後までお付き合いありがとうございました (2017年4月30日 21時) (レス) id: 94fb074fe3 (このIDを非表示/違反報告)
まるさん@地球領(プロフ) - この作品で、刀剣乱舞の小説で初めて泣きました…!感動的なお話、有難うございました、!(@⌒ー⌒@ (2017年2月9日 13時) (レス) id: 16bde0c68d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Tau | 作成日時:2015年12月5日 1時