誰も知らない ページ34
side No
最近Aの元気がないこと、様子がこれまでと少し変わってしまったことについては何となく分かっていた。特に幼い時からこれまでの時間の大半を共に過ごしていたローレンはその変化にはすぐに気づいていた。
しかしそれでも聞けなかったのは、Aが明確に線を引いているその内側に入り込むことに対する躊躇いがあったから。
知り合った他者を決して名前で呼ぶことはなく、自分のことは話そうとはしない。自分で引いたその線を超えるようなことはせず、引き際をよく分かっている。どこまで踏み込んでいいのかを理解し、自分の本心を曝け出して感情的になることはほとんどないと言っても良いだろう。
「普通」を頑張って装っている、それがAだった。
ぴんと張りつめている糸をそのまま守るべく、核心的なその部分には触れないで現状維持を望んだ。しかしその糸も張りつめすぎているといつかは千切れてしまうように、ある日突然ぷちんっと耐え切れなくなってしまう。それを分かっていながらも、何も成す術はなくただこの毎日が壊れませんようにと願うだけ。
結局のところそれが、ただ己を守るための言い訳であることからはひたすらに目を逸らしていた、
ちゃんと話をしなければいけない。その現実をローレンはようやく見つめていた。いよいよまずいと現実的に考えるきっかけとなったのは、とある休日の朝。部屋から出て来たAとたまたま鉢合わせたとき。その表情があまりに消えていたのだ。
今からバイトだというAに向かってローレンは夕飯を誘った。ご飯に行かない?ではなく、行こうと言葉を使って。まるで強制のようなその言葉。Aも分かったと頷き、バイト終わりに近くの駅で待ち合わせすることになったのだ。
見知った場所で改まった話すとなると緊張してしまうだろう、だからわざと外を選んだ。家を出るまでのその間、いつもより頻繁に時計を見ていたため時間経過が遅く感じていた。そしていつも家を出るときよりも早く準備を始めて、だから準備が早く終わって結局そわそわしている時間がまた訪れただけだった。まるで心臓に得体のしれない虫のような何かが這いずり回っているような、そんな気持ち悪さがずっとそこにある。
ゆっくりと息を吸って、そしてゆっくりと吐き出す。冷静になり、自分を落ち着かせたいときによくやる動作だった。
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はるた。(プロフ) - purin1127yさん» コメントありがとうございます!自分ペースにはなりますがこれからも更新していきますので、よろしくお願いします! (3月23日 11時) (レス) id: 1d5bdf50b7 (このIDを非表示/違反報告)
はるた。(プロフ) - 蝶形苺_DIAさん» コメントありがとうございます!嬉しすぎるお言葉です😭 (3月23日 11時) (レス) id: 1d5bdf50b7 (このIDを非表示/違反報告)
purin1127y(プロフ) - いつも更新楽しみにしてます。無理しない程度に更新頑張ってください‼︎ (3月22日 3時) (レス) id: da4c80d9fc (このIDを非表示/違反報告)
蝶形苺_DIA(プロフ) - まっじでおもろい!小説家になれると思いますっ!更新楽しみにしてます😍 (3月19日 22時) (レス) @page47 id: b7f5c20393 (このIDを非表示/違反報告)
はるた。(プロフ) - 継森さん» コメントありがとうございます!こちらこそ、読んでいただいてありがとうございます!誤字のご指摘もありがとうございました、訂正いたしました! (3月19日 22時) (レス) id: 1d5bdf50b7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はるた。 | 作成日時:2024年1月6日 22時