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副会長の圧に負けて箸で卵焼きを掴んで、彼の口元へと運ぶ。彼はぱくりとそれを食べて何度か咀嚼すると、その目をきらきらとさせた。子どもみたいに光いっぱいなその目が私に向けられる。

「美味しい、美味しいよこれ!」
「ありがとうございます。」
「お店開けるんじゃない?」
「大げさですって。」
「どうしたんです?」
「Aちゃんの卵焼き美味しすぎ。」

 副会長が突如上げた大きな声にそれまで個々で過ごしていた他の生徒会メンバーも反応を示す。加賀美先輩は読んでいた本を閉じて、剣持くんは宿題の手を止めて、晴と不破先輩は会話をやめ、会長はこっちに来ることはなかったけど視線はじとりとこちらを捉えていた。皆が私たちに注目している。少し前じゃ考えられなかった光景。

 副会長が話す卵焼きの話を聞き、他の彼らもそわそわとし始める。だけど人数分の卵焼きが入っているわけでもないし、彼ら全員に料理を分け与えていれば私のお弁当がなくなる。

「あ、じゃあ今度お花見とか行かん?」
「花見?冬もいいとこだけど。」
「春になったらやん。桜も咲いて見頃になったらさ、なんかいいとこ探してみんなで弁当作ってぱーっと花見しよ!」

 名案と言わんばかりにプレゼンする不破先輩の顔は終始楽しそう。その提案を却下するような人間はこの場にはいなかった。正確に言えば賛成派と、反対ではないけれど花見という言葉には嫌な思い出がある派。それは勿論私と、晴とローレン。私に向かって突き刺さる2人の視線は痛い程に分かっていた。だけどこの場でその感情を出すわけにもいかず私はただいいですね、なんて当たり障りのない返事をするくらいしかできなかった。

 …生憎と私は、桜に良い思い出がない。あんなに綺麗なのに、どうしても好きにはなれなくて。

「Aちゃん、」
「どうしたの晴。早く戻らないと授業始まるよ。」

 昼休みがもうすぐ終わるという頃、3年生、1年生はそれぞれしっかりしている加賀美先輩と剣持くんがその他の腕を無理矢理引いて本校舎へと戻って行った。因みに3年生は異能の座学、1年生は異能実技の授業らしい。生徒会で唯一2年生の晴だけは何故か1人教室に残っていた。ゆっくりと食べ終えたお弁当箱を片付けながら私の名前を呼んだ。

「あの時のこと、まだ」

「晴。」

「授業、遅れちゃうよ。」
「…分かった、またあとでね。」

 制した声に引き際だと理解した晴はそのまま背を向け去っていく。ごめんね晴、弱くてごめん。

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はるた。(プロフ) - purin1127yさん» コメントありがとうございます!自分ペースにはなりますがこれからも更新していきますので、よろしくお願いします! (3月23日 11時) (レス) id: 1d5bdf50b7 (このIDを非表示/違反報告)
はるた。(プロフ) - 蝶形苺_DIAさん» コメントありがとうございます!嬉しすぎるお言葉です😭 (3月23日 11時) (レス) id: 1d5bdf50b7 (このIDを非表示/違反報告)
purin1127y(プロフ) - いつも更新楽しみにしてます。無理しない程度に更新頑張ってください‼︎ (3月22日 3時) (レス) id: da4c80d9fc (このIDを非表示/違反報告)
蝶形苺_DIA(プロフ) - まっじでおもろい!小説家になれると思いますっ!更新楽しみにしてます😍 (3月19日 22時) (レス) @page47 id: b7f5c20393 (このIDを非表示/違反報告)
はるた。(プロフ) - 継森さん» コメントありがとうございます!こちらこそ、読んでいただいてありがとうございます!誤字のご指摘もありがとうございました、訂正いたしました! (3月19日 22時) (レス) id: 1d5bdf50b7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:はるた。 | 作成日時:2024年1月6日 22時

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