漆ノ章 �� ページ45
ー・ー・ー
夢を見た
もう10年も前の夢を
「いいかい、私たちが村の人たちを引きつけている間に海に向かうんだよ。船が用意してあるからそれに乗ってお逃げ」
『でも、かあさま、それじゃあやくさいがおこってしまうよ』
「厄災なんて迷信だ。天狐など人のまやかしに過ぎない。この村はおかしいんだ」
父様が私に手渡したのは、家に大事に飾ってあった刀
「護身用にこれを持って行きなさい」
『でもこれはとおさまの』
「いいんだ。これはお前の為に作ったのだから」
母様もまた私に何かを手渡した
上半分だけの狐面だった
「できるだけ遠くに逃げるんだよ。言葉が分からなくてもきっと心優しい人が助けてくれる。狐狛は強い子だって知ってるからね」
母様は私をぎゅぅっと抱きしめる
その上から父様が私達を抱きしめた。私も必死に力の限り抱きしめる
「あぁ、愛しい我が娘。この村に産んでしまったことだけが唯一の後悔だ。許しておくれ」
『わたしは、とおさまとかあさまの子どもで、しあわせです。これまでも、これからも』
思っていることを全部吐き出す
本当にこれで最後だから
二人は私からそっと離れ、背を向ける
私も逃げる準備を整える。狐面をつけ、少し大きい刀を持って
「では行くぞ」
「えぇ。狐狛、達者で」
『はい。とおさま、かあさま』
そして二人は外へ出て行く。私も少しして裏口から家を出た
(さようなら、わたしのだいすきなヒト)
もうここに戻ってくることはないでしょう
ー・ー・ー
「……じょ……」
誰かが呼んでる
「……!……嬢!」
この声は何処かで
「狐狛!」
『!!』
パチリと目を開けると、視界にはオビの顔
少し焦ったような表情をしている
『……オビ?』
「よかった…狐狛嬢、大丈夫かい?」
『何が…』
「あんた、うなされてたんだよ。とりあえず起き上がれるかい?」
なるほど、それであんな顔をしていたのか
私はオビの手を借りて体をのそりと起こす。どうやら夜まで寝ていたようだ
『うなされるような夢ではないのじゃがな…』
「どんな夢だったんだい?」
『……村と家族を捨てた夢、といえばいいのかのう』
「……」
オビが少し驚く表情をする
私の口から出た言葉が意外だったのだろう
『意外、と顔に出ておるのう…』
「いやいや意外でしょ。狐狛嬢の口からそんな言葉が出るなんて」
『私は、そんな善良な人間でないことなど、うぬは知っておろうに』
私は苦笑する
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 171人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Mizuna(プロフ) - 何度も読み返しても本当に面白いですね！続きが読みたいです！ (2023年1月30日 15時) (
レス) @page46 id: 0ed3c8b7be (このIDを非表示/違反報告)
まりねえ - 私も終わりなんて嫌です！ 頑張ってください。応援しています！ (2017年3月22日 22時) (レス) id: c914c93a5f (このIDを非表示/違反報告)
ミヤ - おわりなんてやですよ 頑張って下さい (2017年3月18日 10時) (レス) id: dcf699db89 (このIDを非表示/違反報告)
ヒナタ - おもしろいです！次の話も気になります！がんばってください！ (2016年9月24日 12時) (レス) id: a4a064b62f (このIDを非表示/違反報告)
つねさん(プロフ) - 犬夜○…？春月サンの作品すごくいいです大好きです頑張ってください！！ (2016年7月30日 23時) (レス) id: 45649277a8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：春月 | 作成日時：2016年3月20日 11時
