南條と ページ40
「ここまで。午後の稽古まで休憩だ」
「お疲れさまーまた後で」
午前の稽古が終了し、アンシエントが稽古場を出ていく中、蜂谷は彼らに直談判をしに行く。要件は揚羽のことだろう
重い空気の中に哀葉はいない。昼食の準備で一時間前に抜けたためだ
「長丁場になりそうだな」
「だな」
蜂谷を端目に、虎石と空閑はぽつりと零す
「さってと、愛しの子猫ちゃんの手料理を食べに行きますかね」
「お前、さっき発言気を付けろって言われただろ。怒られるぞ」
「哀葉が聞いてないからノーカンだって」
──
午後の稽古が始まり、終わっても、揚羽は現れない
揚羽のオーディションへの参加資格はく奪が刻一刻と迫っている
だからとて、無理やりに部屋から引き出すことは叶わない。いつもは余計なことに首を突っ込む哀葉も、今回ばかりは様子見だった
『あ、じゃあお先』
指導をしていたオーランド組に声をかけ、稽古場を出る。稽古指導に加えて、朝昼晩の食事作り
アンシエントからの直接指導を受けてはいないとはいえ、哀葉の体に疲労は溜まる
それは彼女自身が一番良く分かっていた
(折角、和泉と部屋一緒なのになぁ…)
他愛ない会話はするものの、恋人らしいことは何も起こらず、寝て起きるだけの部屋
部屋でも気を張らなくて済むのはありがたいのは確かだが、それでも、今の哀葉には苦痛だった
(いつから人肌恋しい人間になったかね。私は)
廊下を小走りしながら、苦笑する
と
「あ、やっほー。哀葉」
曲がり角から現れたのは、南條だった。構っている時間のない哀葉は軽く返事を返して、素通りしようとしたが、それは南條の手が腰に回ったことによって止められる
『…なに、みなみん』
「ちょっとぐらい話してくれてもいいんじゃない?」
『これからお前らの夕飯の準備なんだけど』
「じゃあ俺も手伝うからさ。これでも手先は器用な方だよ?」
それなら、と哀葉は渋々頷いて、食堂のキッチンに立つ。いつものエプロンを身に着けて、野菜を洗う。隣に立った南條はというと、哀葉を見て手を伸ばす
「哀葉て実は抜けてるよねえ。袖、捲りきれてないよ」
『えっ、あ、ごめん』
哀葉の後ろに回り、南條はずり落ちている袖を捲り上げる
(なんか、変なの。みなみんが身長高いからかな)
「無反応なんだ」
『え』
まさかそんな反応がくるとは思わず、間抜けな声が喉を通った
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作者名：春月 | 作成日時：2018年1月20日 23時
