【アルスラーン戦記】月と詩を君と【改訂版】 (ページ10)

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九ページ10

討ち取った猛将や兵士の首を晒し、逆上させ城門を開けさせるという心理的な攻撃は、定石的戦略といえども精神的にキツイものはキツい。
ほんの数日前までは共に会話をしていた者たちが、あられもない姿で再開ともなるのは悔しくて、苦しいものだ。
『…っ、ごほっ、』
「む、如何なさいましたか」
『いや、砂埃で咽せただけだ。しかし、この場に国王の首がない事に悲しむべきか喜ぶべきか』
国王の側にずっといた筈の大将軍ヴァフリーズがこの場に揃えられているのなら、同列に国王の首もあるほうが納得がいく。
だが、ないということは生き延びたのか、捕虜となったのか。
(打倒案は捕虜だろうな。ルシタニアにそんな脳があるようには見えんが)
ペルールは眉をひそめ、その場を後にする事にした。王妃への報告はガルシャーフスと遅れて来たサームに任せる事にした。彼女にはまだ引き継ぎ作業が残っている。
──本当は、耐えられそうに無さそうだから。

攻囲戦十一日目
ルシタニアの唆しにより、エクバターナにいる奴隷達の謀反が多くなっている。
力での制圧による不平不満が、もう爆発寸前だった。
『ガルシャーフスめ…彼奴はもう少し落ち着くことは出来んのか』
謀反を起こした奴隷を力づくで押さえつけても数を増やすだけだ。己の部下ながら頭の痛い話だとペルールこめかみを押さえた。
もう王都は、長くない。
(出ていくなら、今だろう)
もう引き継ぎも身辺整理も終えた。後は同胞に挨拶だけでも、とペルールは思い留まっていた。
けれどこんな状態だというなら、そんな悠長なことも言ってられなくなる。
『あぁすまないバトー。サームを呼んでくれ。場所は私の執務室で』
「畏まりました」
ペルールの執務室にて事務処理をしていた従者に指示を出す。
彼は頷き、席を立ってサームを呼びにいく。
『…お前にも、苦労をかけたな』
「何を仰います。私はペルール様の従者ですから、苦労など」
バトーはふと微笑む。ペルールが総都督になってからずっと傍らにいる彼は、彼女にとって、とても大切な一人だ。
『……そうかい。バトー、私が居なくなった後はお前も帰るように。“妹”を頼むよ』
「畏まりました。が、妹君に関しては、私では無理ですよ」
『はは、手厳しい』
バトーが一礼し、部屋を出た後ペルールは一休みをいれる。サームが来る前にお茶でも入れようか…と腰を上げると訪問者が。

「宰相スフラブ殿がお呼びです」
『はぁ？』
それはペルールにとって絶対に行きたくないお呼び出しだった。