【アルスラーン戦記】月と詩を君と【改訂版】 (ページ8)

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七ページ8

しばらくして落ち着きを取り戻したルナは涙を乱暴に拭う。
その顔つきはいつものペルールだった。
『万騎長シャプール。良い夢を』
ペルールは一度祈ってから立ち上がる。その手には彼を射ったギーヴの矢があった。
貴方の命ごと、持っていく。そういう気持ちを込めて。
『さて、荷造りと引き継ぎをしなければ。早いうちに奴らと合流したいものだな』
誰に言うでもなく、ペルールは伸びをして部屋を出る。向かう先は住み慣れた自室。

「ペルール卿！」
『おや？サーム、どうしたんだい？お前が慌てるなど』
ばたばたと彼女が言う様に慌てた様子で走ってきたのは万騎長の一人であるサームであり、彼も城内警備として城に残っていたのだ。
「どうしたもございませぬ！何故万騎長総都督の貴方がここを出て行かねばならぬのですか！」
『あぁ聞いたのかい。ははっ、噂は流れるのが恐ろしく早い』
「笑い事ではございません！私は真剣に、」
必死になっているサームを見て、彼女は真剣な顔つきに変わる。
『……お前も薄々気づいていただろう？その時期が少し早まっただけだ。何も今生の別れというわけでもなかろうに』
「ですが！」
『サーム』
「っ…」
ピシャリと放たれる声にサームは言葉を失う。
声音はとても冷たかった。
『もう決めたことなのだよ。王都はもう数日と持たんだろう』
サームは何も言うことができなかった。
事実であるのだ。仕方が無い。

『そこでだ』
ペルールは自分の胸元につけられた総都督の証である称号を外す。
『餞別だ。受け取れ』
「！？何を！」
総都督であることを表すその称号を彼女はなんの迷いもなく外した。
これにはサームも黙ってはいなかった。
「それは貴方が付けるべき物です。私には不相応でございます！」
『その私が認めたのだから不相応もあるまいに。持ってて困ることはないだろう』
ペルールは軽くいうが、彼女の地位はおいそれと入れ替われる物ではない。
そもそも総都督という役職は無かった。
都督という言葉は絹の国(セリカ)の言葉で、軍政の長という意味。ペルールが万騎長に入ってから、彼女がよく騎士同士のいざこざを収めていた事から、まとめ役を作ろうと某天才軍師が言い出したのが始まりだった。
だから、万騎長総都督とはペルールただ一人のための役職なのだ。
「兎に角この地位は貴方のものです。お納めください」
『堅物め。…ま、仕方がない。なら私が出立する際に預かってくれ。どうせ私は解雇された身だからな』
それなら、と頷けば、この話は終わった。