十二 ページ44
ノックを三回。そうすると誰か、という警戒心満載の問いが来たので素直に名乗る。
『ペルールだ。夜半にすまないね』
「入るといい」
『では、失礼』
了承を得たので部屋に入る。部屋の主であるファランギースは私を見て柔らかく笑う。
「どうしたのじゃ?」
『可愛い妹に髪を結ってもらおうかと』
「ふふ、そこに座るといい。櫛を持ってくる」
ファランギースはそう促して鏡台にある櫛を取りに行くので、私も従ってその場のクッションにぽすんと座る。
まだちょっと、ルナが抜けない。
大人しく待っているとファランギースが優しく髪を梳き始める。
『終わったら交代ね?』
「あぁ。それはそうとルナ、言おうと思っていたのじゃが、彼奴はやめた方が良いぞ」
『?なんのこと?』
首を傾げると、彼女は短く息を吐く。呆れにも似たものだった。
「ギーヴじゃ。おぬし、好いておるじゃろう」
『は』
息が止まったかと思った。
「ルナに恋心が芽生えたのは嬉しいが、よりによってあの男なのはいただけんな。それでも…」
『まっ、待って待って!?だ、だれが、だれを、好いて…?!』
髪結いが途中なのも忘れて、私は後ろを向く。ファランギースは至極面倒臭そうな顔をしていた。
あ、結う手は止めないのね。
「おぬしが」
『私が』
「ギーヴを」
『ギーヴ、殿をっ…!??』
言い聞かせるように区切った言葉を反芻して、意味を理解して更に大混乱。
何がどうしてそうなるの!?
「やはり自覚がなかったか」
『は、え…?う、嘘…いや、でも、まさかそんな…?』
好きって、異性としての好きってことだろうか。でも友人としてならファランギースもいちいち聞いてこないだろうし。
でもまさか、よりによって。
『………』
「図星か。可愛いのう」
『はわっ私はっ何も…!?』
否定したいの否定できない。
恋なんてしたことはなかったけど、物語や友人から聞くような感情が湧いて出ているのがわかる。
ああなんてこと…!!
「嬉しいような、悲しいような…複雑じゃなあ」
『よ、よりによって、ギーヴ殿って…ないでしょ、私…』
「全くじゃ。どこに惚れる要素があったのじゃ」
言われて出会ってから今までの彼との会話を思い出す。
旅の道中?違う。偶像部屋で二度目の邂逅をした時?違う。
じゃあまさか。
『初めて、会った時…?』
と口に出して後悔した。
なんてこと!
一目惚れだなんて…!!!
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作者名:春月 | 作成日時:2020年8月18日 19時