【アルスラーン戦記】月と詩を君と【改訂版】 (ページ35)

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朝、いつも通り朝日が開けきらない頃に起床するとファランギースは既に起きていて減った矢の補填をしていた。
『おやファランギース殿。朝が早いな』
「そういうルナも早いではないか。なんだかんだ幼少の習慣が染み付いておるのう」
ファランギースが普通に話しかけてきたので、今この場に誰もいない事を悟る。演じる意味が無かったな。
『あれだけ叩き起こされれば習慣付くわよ…』
「何か言ったか？」
『いいえ何も。所であの三人は？』
彼女の眼光が鋭くなったので慌てて話題を変える。危ない危ない。またお説教されるのはごめんだ。
「殿下とエラムは川へ、奴は薪代わりの枝を集めに行っておる」
『ふふ。嫌と言いつつエラムはアルスラーンが放っておけないらしいね』
「…みたいじゃのう」
二人顔を見合わせてクスクスと微笑ましい姿を想像して笑う。
ふと、ファランギースは私が持っている物に気づいた。
「おぬし、それは横笛か？」
『ん？うん。朝シャビニカに吹いてあげるのが習慣になってて』
もっともここ最近は激務に追われてて演奏する事が叶わなかった。だから王都から逃げ出した時、シャビニカにせがまれたのだけど。
「見ない間に随分芸達者になったのう、ルナ。前は嫌々やっていたというのに」
『いつの話してるの。…外に行ってくる』
昔のことを引き合いに出され、何となく恥ずかしくなって足早に小屋を出る。
「おや、ここでは吹かんのか？」
『貴方がいると気恥ずかしくて集中出来ないの！』

一言吠えて外に出る。
全くもう、本当に彼女は私をからかうのが好きだな。なんて不貞腐れながら外を歩いているとギーヴ殿と鉢合わせた。
『お前も朝が早い……ではないな。夜番ご苦労』
薄ら瞬きが多いので、夜番をしていたのだろうと労いを送ると否定はしないが嫌な顔をされた。
「はぁ…お前に言われてもな。なんら疲れが取れん」
『ならさっさと中に入ってファランギースに挨拶だけして寝ると良い』
「む、ファランギース殿も起きているのか。それは声をかけなければ！」
ギーヴはそう言って小走りで廃墟に戻る。
『うーん…どう考えても妹に悪影響だな。あの男』
今までファランギースに言い寄ってきた男の中で一番タチが悪いかもしれない。今のうちに処分するべきか…？
そんな物騒なことを考えながら、私は今か今かとソワソワしている愛馬の元に向かったのだった。