【アルスラーン戦記】月と詩を君と【改訂版】 (ページ28)

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十一ページ28

カーラーンは朦朧とする意識の中、目線を彷徨わせ自分を囲む自分を追い詰めた人間を眺めていた。
そして、ふ…と少し頬を緩ませた。それは“まったくこの王子は…“と諦めにも似ている。
それで全てを悟ってしまった。彼は完全な裏切り者には、なれなかったのだ。
(不器用。あまりにも不器用すぎる)
『馬鹿者…』
小さく呟いた私の言葉を彼の耳は拾ったようで、私を見て笑った。
そのせいで私も彼を完全には恨みきれなくなってしまった。それに彼が何故こんなことをしていたのかも、その理由も知っているから。
「死ぬなカーラーン！生きよ！」
アルスラーンの嘆きはもう届かない。カーラーンは最後の力を振り絞って。
「おぬしの命令は聞けぬ！」
それが彼の終わりを告げる言葉となった。
(あぁどうして、どうしてこうなってしまったのだろうか)
それでも今は、ただ祈るのみ。

彼の最後を見届けた後、聞き出した情報をアルスラーンに伝える。
王は生きている。それだけではあったが希望が見えた。
「そうだ！おぬしらを殿下に紹介せねば！」
そのナルサスの言葉に私は初めて人が増えていたことに気づいた。
先ほど見た女性がそうだったのだろう。と改めて顔を見て…

後悔した。

『……』
(やっばい…どうしよ…あれ絶対あの子だよね？私の目が正しければあの子だよね？？)
もう一人の男の方も見覚えがあるので渋い顔をしてるけど、女性の方が衝撃的すぎて正直どうでも良くなる。
「我が名はファランギース。フゼスターンのミスラ神の神殿に仕えていた者でございます。先代の女神官長の遺言により参上いたしました」
『っえ』
つまりそれ、厄介払い。
衝撃の事実に思わず声が出たが誰も聞いていなかったようだ。
しかし、まあ、やっぱり彼女なんだなぁ。

聞き覚えがないわけがない。彼女は…ファランギースは、私と同郷であり、幼馴染であり、可愛い妹分である。
本来なら一年越しの再会なので喜びたいところだけど、そうもいかない。
何故なら私は万騎長総都督(この役職)と男装をしていることを彼女に言っていないのだ。
(どうやって逃げよう)
そんな脳内大混乱の私など知らず、ファランギースの隣にいた男が傅いた。
「我が名はギーヴ。王都エクバターナより殿下にお仕えするために脱出してまいりました」
まさかあれきりの出会いだと思っていたギーヴ殿とまた逢い見えるとは。
不思議な縁だな。と思いつつ、彼の発言に呆れてしまう。