【アルスラーン戦記】月と詩を君と【改訂版】 (ページ19)

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俺らしくあれページ19

仮眠を取って十数分して穏やかな音色にゆっくり起こされる。
目蓋をあげて、音の正体を探ればペルール卿が横笛を吹いていた。
(シャビニカにせがまれたか？)
横にいる愛馬が嬉しそうにすり寄っている所を見るとなんとなくそんな感じがした。
しかしまあ…。
(軍政の長にしては芸達者なもんだな)
詩に横笛。この分だと舞も出来るだろう。
あぁそういえば、女神官の幼馴染がいると言っていたな。その女性から教わったのだろうか。
「うまいものだな」
『！』
声をかけると気付かなかったのか、目を丸くしてこちらを向いた。
だがそれも一瞬で、通常の顔に戻った。
『もういいのかい？そんな時間は経っていないが』
「問題ない。それより、お前も仮眠を取ったらどうだ」
決して気遣いではないが、俺だけ仮眠を取るのもおかしいだろうと促せば少し迷って頷いた。
『そうさせてもらおう。シャビニカは頼んだよ』
「あぁ」
ペルール卿はそのまま近くの木の根本に座り、剣を抱えたまま瞳を閉じた。
(…寝たか)
暫く眠り辛そうにしながらも、寝息が聞こえて来る。それでも周りを警戒してか眠りは浅い。そういう姿勢は武人としての癖が染み付いているのだろうと思う。
「よく分からん奴だなぁ」
隙が見えない、張り付いた笑顔が絶えない、冷酷非道、外道、今まで色んな噂を聞いていたがどうにもどれにも当て嵌まらない気がしている。
隙が見えないのは確かで笑顔も胡散臭い。だが、その間に見え隠れする優しさが違和感になる。
何かに、気付いてしまいそうな程。
(いや考えすぎだな。そもそも此奴が何であろうと俺にはどうでもいい)
どうせ今だけの縁。村につけばそれまでなのだから。
村について、金品と馬を交換して、別れて、また放浪の楽士に戻る。母国の王都のアレソレは気に喰わんが俺はお国事情なぞとは無縁でいたい。
金と楽器と、美女がいればそれでいい。
「…あぁしまった。琵琶を置いてきてしまった」
そこそこ良い値の、気に入っていた琵琶だったのだが手放してしまったものは仕方がない。
盗んだこの宝石で前のものより良いものを買えばいい。
(そうだ。別に焦らずともいい。南に行けば交易都市ギランがある。その他の国もある。のんびり探せばいい)
俺には時間がまだまだ山ほどあるのだ。
これからも変わらない生き方で、俺らしく。