【アルスラーン戦記】月と詩を君と【改訂版】 (ページ16)

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十五ページ16

『ふむ…麗しき盗賊殿。国を見捨てる私と共に旅でもしないかい？』
「盗賊って…おい」
『今文化財を袋に詰め込んでいなければそう呼ばんよ。それにお前には馬がいない。町まで送り届けるための旅ならばお前にとっても悪くはない話だろう？シャビニカにも気に入られたらしいしな』
くつりとペルールは顔を歪める。
確かに彼女の言うことには一理ある。徒歩で逃げるよりは馬があるほうがいい。
「まあな。この量の物品を歩いて持って行くぐらいなら、男二人の虚しい旅の方がマシだな」
『言ってくれる。では』
「その話、乗ってやろう」
『ははっ、退屈しなさそうだ。なあ？シャビニカ』
そう笑う姿は、今までの貼り付けた笑顔ではなく心からの笑顔のようにギーヴの瞳には映る。
総都督は偽りの笑顔しか見せない。とも言われていたが、噂は所詮噂でしかないのだとギーヴは思う。
『さて、ここでのんびりする訳にはいかないな。こうしてる間にもルシタニアは湧いて出る』
「あぁ」
ギーヴはある程度の文化財や金品を詰め込んで、通路へ進んでいく。ペルールもそれに続いた。

「ぷは」
『やっと外だな』
長い通路を歩き続けて、ようやく辿り着いた出口は王都から程遠い場所にあった。
遠目から見る王都は煌々と赤く燃えて、煙がそこ彼処で上がっている。
「あの強大なパルスがなんともみじめな終わり方だな」
『国なんてものは所詮そんなものだよ』
ペルールは、胸元から翡翠晶笛を取り出して咥える。しかし、音が鳴ることはなかった。
『あぁ、そう…それが精霊(ジン)の願いなら』
「それはなんだ？」
吹いているように見えるのに、音が一切聞こえなかったことに疑問を持ったのだろう。ギーヴが尋ねる。
『女神官(カーヒーナ)の幼馴染から貰ったものだ』
「ふぅん？」
『興味ないなら聞くでないよ』
ペルールは王都がある方向を向いて目蓋を閉じる。
静かに両手を掲げて、口を開いた。
『眠れよ穏やかに神の腕に抱かれて汝全ての苦しみから汝全ての悲しみから解き放たれよ全てを忘れて心ゆくまでさあ眠れよ』
彼女の口から発せられたのは、死者への弔いの詩。優しく穏やかな声音で、王都を守っていた兵のために捧げているのだ。
(……こいつにとって王都を捨てるのは相当な覚悟だったかもしれんな)
ギーヴの頭に詩が一つ浮かぶ。それは武勲詩鈔の続き。

かくして英雄王カイ・ホスロー黄金の王座につきければ
列王は大地にひざつきて服従を誓約し
ここにパルス国の統一はなれり──…