夏祭り 続 ページ32
日曜日
夏祭り当日の駅前
虎石は一人、哀葉を待っていた
今日の彼は灰色の浴衣に黒の帯を身に纏っていて、さらには少しはだけている
浴衣は彼の母親が着付けてくれた(寧ろ無理やり着せた)らしい
そんな和泉を遠巻きに女の子達は眺めている
中には話しかけようとする子もいるようだ
それに気づかないほど和泉は馬鹿ではないが、今日のお目当てはナンパじゃない
『和泉…!』
カラン、コロン、と少し早めに奏でられる下駄の声と、和泉の耳に心地よく入ってくるアルト気味の声
「おせーぞ哀葉………」
顔を上げた彼は言葉を失う
何故ならそれは、目の前にいる哀葉が哀葉ではないからだ
『ごめん、思ったより準備に時間が…それに下駄で歩くのに慣れなくて…』
「………」
『…和泉?』
首を傾げる動作にハッと意識を戻す
見惚れていた
その事実に驚きながらも、しょうがないかと自己解決をする
今日の哀葉は浴衣で、藍色のそれには大輪の菊などが描かれている。その浴衣を締めるのは朱色の帯。文庫結びされたそれは大人っぽさの中に少しの可愛らしさが添えられている
髪も、長くなった分アレンジが効くようになって、今日はサイドで緩く簪でお団子をしている
要するに何が言いたいのかというと、綺麗なのだ。今日の哀葉は
「あ、あぁ、いや…まさか浴衣で来るとは思ってなくてさ」
『私だって、和泉が浴衣着るとは思わなかった』
「お袋が着ろってうるさかったんだよ…なんでも、親父がこれ着てお袋と夏祭りデートしたって」
『へぇ…だから、大人っぽく見えるのかな。今日の和泉、凄くかっこいい』
哀葉はへにゃりと笑う
走って上気した頬がまるで化粧のように映えて、美しさを際立たせる
「…勘弁しろよ…」
『?どうかした?』
ただでさえ、歳の差は埋まらないのに
こんな姿見たら
「…お前こそ、綺麗で、焦った」
『………』
「元々、女のお前が見慣れないからか…余計にきたっつーか、なんつーか…」
戸惑いながらも必死に伝えようとする虎石は哀葉としてはとても新鮮だった
いつもは彼が彼女を翻弄することが多いというのに
百戦錬磨のモテ男は惚れた女の前ではただの初心の男に成り下がる
『…和泉顔真っ赤』
「言うな!!恥ずかしいわ!」
61人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:春月 | 作成日時:2015年10月16日 11時